30代半ばくらいのざんすくさん …と、なんかオリキャラ出してしまったけれどすみません









おまえのお母君の、お母君のお父君、そのまたお父君、さらにお母君ときてそのお父君の、さらに……、

どうやらそこらへんがおまえの炎のルーツではないかと、調べがまとまったよ。






アミュレット






それこそ年齢以外では敬うべきが見当たらないような、

組織の生き字引とも呼べる霏々爺殿に、そのようなことを言われた。

ああ、時候の挨拶ののち速やかに立ち去るべきだった、背を向け損ねたガウンのファーが後悔に逆立つ。

二回目の「お母君」の時点でうんざりしていたから、最後のあたり、

つまりはルーツだとかいう文言を聞いて、いよいよこめかみが痛くなった。


「大叔父殿、どうかこの出来の悪い外畑育ちにも、理解の易しいよう説明いただきたいものだが」

「いやいや不愉快にさせたかったわけではないのだよ。
 直系でないとして、二代目に縁あるおまえは、それでもボンゴレの宝に違いないと証明できたというわけだ」

「…それはありがたいお言葉で。ああ、…少々私用にて、失礼」

「宝が持ち腐れてしまわぬようにの」

「腐るほどの持ち合わせがあるならばよかったが」


いっそ皮肉であれと吐き捨て、今度こそ完全に、老人へ背を向けた。

あの目がどうもいけ好かない。老人というのは皆がみなそうだ。

死神との契約を既に交わし、あとは値踏みを待つだけの、じっとりした視線。

魚の生きられぬ濁った沼の、その澱をたたえたような、濡れた眼球。

自分も遠くない将来あのようになるのだと思うだけで、死神との契約を早めたいような衝動に駆られて仕方ない。


なんともこの気持ちを、誰かに押しつけたくて、

その形代は十数年も前からたった一人に決まっていた。

てひどい暴力に、快楽に、侮蔑に、懺悔に、さんざなすりつけてきたが、それでもあれは形を変えない。

まだぴかぴか光る気がするから、歪めた親愛情愛友愛性愛、果ては持ち合わせの少ない家族へのそれなんかも、ごしごし擦りつけて汚そうと試みたが、

やはり銀色は曇らず、直線のまま。

あの屈強な光彩は、たとい老人になったとして、濁り沼には成り得ないのではないか。

だからアミュレート代わりにそばに置いておきたい。

そんな風に思うようになったのはいつからか、ああ自分こそが老人である。





呼べば応える。

常であれば、部下として武器としておそろしいほどの処理能力を発揮する。有能な、城育ちの戌だ。(あれが自身の本分を弁えず、荒海の鮫と変貌するのは、刀 の閃きに酔いしれているそのときだけである)

鮫はいざ知らず、戌ならば主人に尽くさなければならない。さあその大義を果たすべきは今だ。


来いと一言、低く発する。

あれがこの城のどこに居を構えているのか、実は知らない。知る必要もない。

十秒で来なければ殴るだけだが、その程度の猶予であれには十分、

たいていは五秒のうちに姿を現し、冗談のような声量でもって逆にこちらの耳を殴打する。


「呼んだかぁクソボス!」


うるさくがさつな声色を差し引いても、ほとんど飛ぶようにして駆けてきた戌は、やはり優秀で可愛い。

喧騒の罰として、そばにあった水差しで横面を打ち付け、それから召集に応じた褒美として顎の下のあたりを撫でてやる。

自身の気まぐれな右手の脇で、銀を弾く長髪をしたたる水が梳いていた、

氷柱のようだとぼんやり思う。


「訊きたいことがあった」

「なんだぁ」

「本日16時42分、大叔父殿よりおれの出生の如何について、ようやく調べがついたと報告があった」

「Si」

「独立暗殺部隊ヴァリアー次席スペルビ・スクアーロ、おまえはその、おれのルーツとやらについて、

 どのような情報及び見解を、いつの時点から持っている?話せ」

「Si、ではボス、報告する、

 その件については自分が独自に、11年前の2月8日未明より調査を開始し、同27日15時にはボンゴレ・セコーンドへ繋がる正確な家系図の作成及びセ コーンドとボスの炎の型の比較検証が完了した、

 ヴァリアー科学班においてはDNAに至るまで詳細に照合させ、対象人物、すなわちボスとボンゴレ・セコーンドとの血縁関係を認めるものとする。

 ならびに自分の見解としては、」

「と、しては?」


「ヴァリアーのボスたるザンザスに報告するまでもねえ瑣末な調査及び調査結果であり、

 …クソみてえな大昔の、こまけぇこたぁどうでもいいから、

 クソジジイもガキも首トばして、

 今そこにあるボンゴレをそのままあんたの掌に乗っけてやりたい、それしか思うことはねえってとこだなぁ!」


真白い歯をむき出しに笑い、

獰猛に目を見開き、

水飛沫を跳ねとばして強烈に光る。

これがほしかった。

いっそ眩しすぎて、これの姿がよく見えないときがあった。視界にすら入れたくないときもあった。

しかし歳とともに盲いてきたこの赤い目には、採光こそが必要かつ適当で、それに気付いたのはやはり最近だ。


「ではスペルビ・スクアーロ、おまえの調査の迅速・正確さ及び上司への報告必要の判断を妥当であると認め、

 その褒美を今とらせる」

「Si」


っつうかあのオッサンがひけらかしてくる情報で、うちより正確とか早かったことが今まであったかよ、と毒づく、

しかしその唸り声とは対象に、褒美と言われればその意図を正確に理解し、

しっとりと視線を絡ませてのち、思わせぶりに伏せるような芸当をやって見せる。

撫でるだけに飽いた右手は、顎の下から頬を通り、眉、額、前髪をひと掴みし、そこを親指と人差し指で検分してやる。

まだ濡れている。


「ザンザス」


こうなるとこれは、先ほどまでのやかましさが嘘のように、低く透る声でさえずる。

鼻先を首筋に埋める。

太腿のあたりを左手爪で弾く。

く、とさらにくぐもる。人間拡声器が型無しである、

誰だおまえは、と笑うと、あんたの鮫で、あんたの剣だ、と答える。

戌ではなくてか?とさらに笑うと、じゃあ戌で鮫だ、と答える。

おかしくてこちらが吹き出すと、戌の鮫も笑った。柄にもなく眉尻を下げ、安心したように笑った。












あのあと、寝室に連れ込んで、おあずけもなく褒美を施した。

いわく、褒美と銘打ったただのセックスに、空が白むまで文字通り明け暮れたわけだ。

あんたの体力ってどうなってんだぁと独りごつ汗みずくの背中に、

ふと言ってみたことがある。


「おまえ、おれがあの霏々爺と寝ろといったら寝るか?」


とたん、


「すまねえなぁボス、それが目的達成のための手段なら、

 おれぁなんの感慨もなくヤっちまえる」


まるでキリストが下民を憐れむような、マリアがキリストを慈しむような、

そんなキスが頬に降った。

夜明けの光が、濡れた背に散らばる銀糸をとらえ、いっそ宗教画だ。

まるで自分たちらしくないといっそ呆れる。


あんまりにも呆れてしまって、ルーツがどうの、あの老人の不快な声色や沼の腐臭すらも、

すっかり忘れ去った。