びー玉
永遠かと思われた夏休みも終わりに近づき、
おれたち補習組はそれなりに団結していた。
もとより山下や田中、上田なんかとは仲が良かったが、他の奴らとも
もちろん、亀梨とも。
亀梨は、田中や上田が仲良くするから、という感じで、一緒に飯食ったり遊びに出たりしたが、
おれや山下含め、その他大勢は、
なぜこの地味で変哲のない男と、上田や田中が仲がいいのか、
初めのうちさっぱりわからないでいた。
でも、ふと気付くところころ笑っている亀梨、もっている空気感というか、何気ない気遣いが、
陽だまりみたいで。
次第に居心地のいいものとなり、次に心が温かくなるものになり、
そしてなくてはならないものへと。
(山下なんかはいつの間にか、亀梨のことを自分専用の抱きつき人形に決定したようだった)
間近に見る亀梨は、どうして今まで気づこうとしなかったのかわからないほどに、
繊細できれいな顔だちだった。
無個性な髪形や、無個性な制服の着まわし、主張のない性格というのはこれだから損なのだと上田が嘆くのも無理はない。
そういったものが亀梨のうつくしさをかき消しているのだ。
うつくしさって、・・・寒、と自分でそこまで考えて、やめやめ、ちゃんと勉強しよ、と教科書を構えなおすが、
今日は斜め前に座っている、地味で暗そうで、でも綺麗な男が気になってしかたない。
女の子相手ならブラのひとつも透けないかとヨコシマなメガネをかけ、エスパーよろしく見つめる背中を、
亀梨のは、ほとんど無心でただ見ていた。
細い肩。
細い腕。
それなのに中学では野球部所属、それもエース投手だったらしい。(ちなみに、肩を痛めて高校では帰宅部)
そんなささやかで、でもギャップに驚くような。
こいつに関する情報をひとつおおく抱えるたび、なぜかおれは嬉しくてしかたなくなるのだ。
それでもって、最近すごくすごく亀梨と仲良くなって、今も亀梨の隣席を陣取り上田に睨まれる山下と
それににこにこして応対する亀梨とを見ると
どうして、なんとなくちりちりする、わけのわからぬ八月の今日この頃、だ。
補習の帰り道、日差しはコンクリートを焼く勢いで
もちろんおれたちもあぶり出され、田中が一番に声をあげた。
「あぢぃ!ラムネのみてえー!!」
次に山下、「お、めっちゃ懐かしい!おれも飲みてーわ」
上田は「あ、ガリガリくん食いたいかも」とマイペースを貫き、
亀梨は「ふふ、じゃあ駄菓子屋よってこうか」と笑う。柔らかく笑う。
ぎんぎんぎらぎらの太陽の光線も、
なぜか亀梨の周囲30センチくらいでは「おひさまのひかり」というようなレベルになってしまう気さえする。
ひとえに亀梨の持つこの、スポンジみたいな雰囲気のたまものか。
そう、山下にこっそり耳打ちしたら
スポンジっててめー、もっとましな、かわいいもんに例えろと不機嫌になってしまった。
なぜだ親友。なぜそこで怒る。おれの日々には「なぜ」が多い。
結局駄菓子屋に、高校生男子が5人で押しかけて、
ラムネ四本とガリガリくん一つを購入した。
店の前でたむろして、うめーだのなつかしーだのさいこーだの、ラムネ一本でこれほどまで、といった感じに盛り上がっているおれたちは
通りがかりの女子高生にあの人たちかっこいい、やばい、だの言われて調子づいたり、
田中の友人らしきどう見てもそっち系の方々に声をかけられて恐縮したり、
駄菓子屋のおばちゃんに邪険にされたりして、楽しく過ごした。
そのうち亀梨のラムネが底をついて、ころころ音がしだした。
はじめおれは、亀梨がまた、笑っているのかと思った。こいつは、いつもころころ涼しく笑うから。
でもどうやらそれは間違いで、亀梨はラムネ瓶に残るビー玉をころころやっていたらしかった。
「こうき、これ、ビー玉とれる?」
「あ?たたっ壊しゃいいんじゃね?」
「もー、んなことしたらお店に迷惑かかるし、ガラスの破片でこうきも危ないっしょ!」
「・・・」
亀梨はむくれて、それでも田中の心配を忘れない。
田中は無言で亀梨を抱きしめ、あーっずりぃと叫んで上田も参戦し、最近では「おれも!」と山下まで乱入する。
亀梨は「みんな、あつい」と言いながら、輪の中心で、地味にまとめた黒い髪を振って、笑う。
笑う。
ころころ。
亀梨の手に握られたラムネ瓶、その中のビー玉、
そこに写り込むおれたち。
おれはただただ、地味で暗そうな、とこいつを位置付け、
そうしてこいつを傷つけた自分を
たたっ壊したくなった。
夏休みが、終わる。
見切り発車ってよくないとあらためて思う