朝、爪を切ろうと爪切りをさがしていると
おれはおとうさんらいおんだ。
おとうさんらいおんはつよくてえらいから、
おかあさんらいおんとこどものらいおんをまもってあげなくちゃいけないんだ。
おれはつよくてえらくてやさしいおとうさんらいおんになりたい。
声に出して読めば読むほどわけのわからない
小学校一年生の時に提出した作文(テーマ・僕、私のゆめ)が
ふと
机の奥のそのまた奥から出てきた。
その、なぜ自分をライオン(しかも所帯持ち)だと思い込んでいたのかもわからない作文を
クラスで発表したとき
となりの席にいた、かわいい、かわいい子が
「じゃあおれ、あかにしくんのこどもらいおんになりたいなぁ」
とか目を輝かせて言うものだから
「バーカ、かめちゃんはおれのおくさんになるんだから、おかあさんらいおんだろ」
と返したことを思い出した。
そしたら
「え。おれおとこだし」
と思い切り軽蔑した目で見られて、果てしなく世の無情を感じたことも、思い出してしまった。
何を隠そう、おれは、その子をそのときまで女の子だと信じて疑っていなかったのだった。(その子の一人称が「おれ」だったにも関わらずだ)
軽くトラウマになりそうなその事件の当事者は
実はいま
おれの隣で眠っている。
ハダカで。
美少年と美らいおん
起こさないよう小さく発言したつもりだったが、
起こさないようゆっくりベッドに腰掛けたつもりだったが、
「なんだ美ライオンて」
眠っていたおれの恋人は目を覚ました。
眠そうに目をこすりながらもツッコミを入れるあたり、さすがだと思う。
「だってお前美少年じゃん」
「まぁね」
それに頷くあたりも、なんというかさすがとしか言いようがない。
「対するおれはどっちかっつーと美少年ってより美ライオンのがカッコイイし、そんな感じじゃん?」
「あー、それわっかんね」
バカ語あみだしてんじゃねえよとか言われてあくびしながら呆れられて、
手に持っていた作文用紙を奪われた。
いっぺんにいろんなことされて、あーとかうーとかしか言えなくなったおれはされるがまま。(バカだから)
「なになに、『おれはいつかじゃんぐるのおうさまになりたいです。おわり』・・・なんじゃこりゃ」
「流行ってたんだってそういうアニメ」
「そりゃターザンだろ。つかライオンはジャングルじゃなくてサバンナだろ」
おれは絶頂に恥ずかしくなって布団のなかに逆戻りした。
隣で寝ていた恋人は、おれと入れ替わりに布団から起きて、
床に脱ぎ散らかったブランドもののシャツを優雅に着こなした。
「ほんとなんでおれこんなアホと付き合ってんだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きだから?」
ライオンが聞いて呆れる、上目遣い気味に持てる限りのかわいさアピールしつつ訊いたのに
「ノリだな」
あえなく玉砕した。
ノリって。
「てか上目遣いキモい」
キモいって。
恋人はまたひとつ欠伸をして、サイドテーブルのぬるいミネラルウォーターをごくごく飲んだ。
おれはまた猛烈に恥ずかしくなって、今度こそ布団を頭から被った。
「美ライオン、美の文字が違うんじゃねえの、微妙の微で微ライオン」
「かめちゃんひどいー・・・」
「王様ってゆうかバカ殿様だし」
「仮にも恋人のおれにむかってー・・・」
恋人は舌が毒である人種だ。
キスのときは甘く痺れさせてくれるが、こういうときはまさしくおれの心臓に突き刺さる言葉を矢継ぎ早に投げてくる。
「・・・なぁ、微ライオンさん?」
ああ、この声色は、すごくすごくイジワルな顔をしているときのだ。
布団のなかにいるから見えないけれど、15年も一緒にいればそんなことくらいバカにもわかるんだ。
「おれの小1んとき提出した作文のなかみ、おしえてやろうか」
「え」
「その場で即席で書いたの、
・・・隣の席のアホライオンがおれのものになりますように、って」
布団をひっぺがされて、にっこり微笑んだ恋人に、噛み付くみたいにキスされた。
おれはそれはもうものすごい幸福感に襲われて、ぼんやりした頭でいろいろ考えている。
なんだ最初から両思いだったのか、とか
やっぱりかめの舌は毒だから甘くて痺れる、とか
美少年というより、美ライオンというより、かめは美チーターだな!綺麗だから!とか
そうこうしているうちに、おれの手はライオンよろしく、
恋人の衣服を乱雑に剥ぎ取っていた。
「この服高かったんだけど。グッチだし。」
「ごごごごごめ」
支離滅裂すぎて何をどうしたらいいやらわからなくなったんです