おれたちは世間一般でいうところの、泥棒というやつだ。
時代がルパンじゃないから、強盗、なんて
下世話かつ無粋な罪名で手配されているのだけれども。
義賊だろうがなんだろうが、盗人は盗人。
どうとでも呼べばいい。
しかしまあ、それにしても、クリスマスというのは。
どんな悪党にとっても、歳を重ね、いくつ罪状を増やしても
なんとなく特別なものなのだと、
陽気と陰気をかき混ぜたようなクリスマスソングメドレーを流す、
カーラジオを延々聞いて、思った。
チュッパ!
おれの愛するフリーウッド・ブロアム車は、たくさんの戦利品を抱え、今日もご機嫌麗しい。
89年式の赤いアンティークが、
警察の包囲網をくぐり抜け銃弾の雨を突破するのは本当に気持ちがいい。
今回の仕事を計画するにあたり、カーチェイスも視野にいれ、
ジンがキャデラックにこだわり、おれはブロアムにこだわり、カメが赤色にこだわった。
赤を好む彼は、華奢な体を窓の外に半分投げ出し、後方のパトカーを煽っては可愛らしく笑う。
ご自慢のシボレーの車体を怒らして、必死にカメを射程距離に収めようと努力する彼らはしかし、
そのカメを溺愛する男のハンドルさばきにしてやられるわけだ。
外気が冷たい。まだ昼とはいえ、
カメは、車内のエアコンで暖をとるおれたちのことなど微塵も気にせず、
サイドガラス全開でハコ乗りを続ける。
カーステレオは爆音でキリストの生誕を祝いつづける。
クリスマスソングの押し売りに飽き飽きしながらも、耳になじんだフレーズになんとなく心踊る。
本日は聖なる日、本日はクリスマス。
本日はセントニコラスからの愛と恩恵を、世界中の子どもたちが受けて然るべき日。
よって、本日のお客様は、スラムの子どもたちである。
中身のみ純正の日本製に強化されたアメリカ車・ブロアムは、
タイヤの悲鳴を置き土産にして豪快なUターンをする。
パトカーは泡を食って隊列を乱す、
そのど真ん中を突き進む、
間一髪で向かってくる車体をすり抜ける、
ジンは口もとの煙草を噛んで笑う。
おれは戦利品に囲まれた後部座席を陣取り、やっぱり最高の気分でフロントガラスを見つめる。
カメはジーンズの破れた太もも部分から、おもむろに銃を取り出して(どこから出てくんだ)、行く手を阻む車のタイヤに照準を合わせている。
「どーせ強化タイヤだろーけどさ、撃ってみてもい?」
「だーめ。かぁめ、もーあぶねえから中はいんなさい」
「えージンのケチ」
「カメの腕はよくわかってるから、実地訓練はまた今度にしな?あめちゃんあげるから」
「わかった、ピーだいすき」
なにその扱いの違い、とジンがふて腐れるのを横目に、
カメは大人しくおれに従い、今度はこちらに身を乗り出し、おれにキスをする。
彼は、本当に可愛らしい。
ジンはおれにも、カメ、と促しながらも、抜け目なく最後の一台を見事に交わして、ハイウェイを降りた。
ご褒美、ジンがんばったねーと言いながら、ジンのハンドルを握る右手にキスしたカメは、
おれのあげた棒付きキャンディーをジンにくわえさせた。
代わりに奪い取ったマイルドセブンを、短めの親指と人さし指に挟んで、
またサイドガラスを全開にし、
まだ執拗に追う別動隊の二台に怒鳴る。今度は尻のポケットから携帯式の拡声器が出てくる。
魔法みたいな男だ。
「クリスマスに無駄足をごくろうさま、
あなたたちのステディはほっとかれて怒ってない?」
シット、と苛立ちを隠さない野太い声と、
お相手願えるか、キューティちゃん、という半ば諦めたような声が追いかけてくる。
カメは煙草を打ち捨てて、
「あなたがジンとピーとおれよりいい男ならね」
にこにこと締めくくったカメに、ステディってオールドファッション(死語)すぎでしょ、と笑うジン、
そゆとこがカメらしくて可愛いんじゃんとおれもうそぶけば、
カメはおれたちを順番に睨んで、もーぜってー、チューもナめたりもイレさしてもやんねえ!!と膨れる。
まだ日の高いうちから、派手な会話をして、笑い合って、
目的地はスラム、何を隠そう、我らが故郷である。
追われるおれたちは遠回りを重ね、慎重にそこを目指す。
道中、戦利品に囲まれて祝杯を掲げる。
(ちなみに、シャンパンとグラスが出てきたのは、カメのジャケットの内ポケット、やっぱり魔法みたいな男だ)
本日仕事をさせていただいたのは、
都市部の高級菓子店に始まり、デパートに雑貨店、…ありとあらゆる菓子店をしらみつぶし。
あらん限りのキャンディー、チョコレイト、クッキーにマシュマロ、ゼリービーンズ、キャラメル、…
虫歯よりママのお小言より飢えに怯えていたおれたちの幼いころには、想像もつかないような、夢のような。
いつだって、スラムに、おれたちの街にセントニコラスはやってこなかった。
ソリもトナカイもない、クリスマスの夜に空を滑るのは、重苦しい寒さと現実だった。
あたたかかったのは、愛くるしいカメと、信頼できるジンと、いつかきっとと歯を食いしばる自分の心臓だけだった。
だから毎年、クリスマスには、おれたちの弟妹らが飢えより虫歯の心配ができるよう
手土産をもって帰省するわけだ。
つまり。
車内はトランクも含め、無数の菓子であふれ返っているわけだ。
「チョコとけねーかな、さっきからずーっと尻に敷いてんだけど」
「ジンおめー重たいんだからなんとかしろ!」
「ピーひっどくね!?」
シャンパンをなみなみ注いだグラスを、ジンの唇にあてがいながら、カメはけたけた笑う。
運転中につき、ぼたぼた零れるそれをジンの喉元から舐めあげて、満足げにする。
窓の外ではねじ巻き式の紙芝居のように、昼と夜とが半分こ、早急に入れ替わりつつあって、
夕闇がますますもってシャンパンをおいしくする。
本当においしい。
気泡が車の揺れに翻弄されて、グラスの中でくるくる踊るのがいい。
「あー、けっこ酔えたかなー」
グラスの気泡越しに映るカメは確信犯の微笑みで呟いた、
やおらグラスをひっくり返し、
静かにジンのジーンズを汚した。
「…あーあ、カメ、ジンにだけそゆことしちゃうの?」
「だってピー、うしろはお菓子だらけで身動きとれねーじゃん」
あとでピーにもするって、と言い訳をしてから、カメは遠慮もなくジンのそこに顔を埋める。
小さなジッパー音の後で、大好きなアメを頬張る子どものように、それに夢中になった。
「あー…カメちょーかわいい」
ジンはすき、と七回くらい繰り返して、先ほどキスを受けた右手でしきりにカメの髪をかき回す。
てめー、利き手はハンドル握っとけ、とおれが悔し紛れにぼやくと、
おれは運転するときは両利きですぅ、とジンが返す。
そのジンが突然、プリン味、というので、おれは素直に戦利品の中から棒付きキャンディーのプリン味を渡す。
それをカメにくわえさせて、どっちがおいしー?とかきくからこいつはバカだというのだ。
カメだってばかだ、ためらいなく「プリン味にきまってんだろ」とか可愛くないこと言って、
男心を今日も今日とて傷つける。
しかし、壮絶にえろちっくにキャンディーを舐めて、今度は「ピー、」とそれをおれに渡してくる。
低い位置から、低めの声で「なめて」と告げられ、それに従うと、
カメの唇も追いかけてきて、キャンディー越し、甘ったるいキスで愛撫を受ける。
おいしーね、とキャンディーごとおれの口を舐めて、それはもう可愛いのだけれど、
「おーい、でもそれっておれのアレと間接キスじゃね?」
とバカが言うから思わず脱力する。
あっは、そだね、とカメがあっけらかんと笑い、
そのままプリン味はおれのものとなり、
カメの唇はまた、ジンのアレのものになった。
夜半過ぎに、ようやくささやかなプレゼントを無造作に配り終えた。
靴下にもブーツにも入っておらず、ヘタしたらプライスタグすらついたままだが、
スレたガキどもが口をそろえて、ありがとうサンタクロースと笑うのはまんざらでもない。
七つの女の子が、こんなすてきなもの、見たことないわと大泣きした。
九つの男の子は、宝物のように両手で抱えて、二分見つめて、がつがつと食べはじめた。
五つを数えたばかりの悪ガキが、さらに幼い弟に自分のチョコレイトを分け与えていた。
友だちのものを横どる子どももいた。
殴っても自分のものにしようとした子どももいた。
カメはその子を責めずに、キスをする。
取られた子にも、キスと、おかわりを差し出す。
ジンは無罪放免となってあっけにとられる悪ガキに、拳骨を落として、
こんな寒いとこで、卑怯者になっちまうと、一人ぼっちで凍え死ぬぜおめえ、と笑う。
おれはといえば、考える。
菓子を与える。
明日飢えて死ぬかもしれない子どもに、たった一晩だけの夢と食いぶちを。
そんなもの知らぬままいた方が、よほど、この子たちにとって、よほど。
なんというエゴで、自己満足の悪意だろう。びっくりする。
おれたちの罪状は、スピード違反でも強盗でもない。もっとひどいものだ。
それでも、やめられないのは、
おれたちがどうしても、あの日のかわいそうな自分を救ってやりたいからだ。
ジンは赤のフリーウッド・ブロアムをためらいなく乗り捨てる。
カメはそれよりも若干、名残惜しげだった。
このソリはお役御免だ。トナカイ2匹とセントニコラスは警察の追跡がこわいので、
キャデラックはやっぱかっこいーよなぁ、とつぶやきながらも、
別の場所に隠しておいた、逃亡用のワゴンにさっさと乗り込むことにする。
今度はカメが運転席に座った。またしても魔法のように、カメのベルトの辺りからキーが取り出された。
ジンは疲れたというので後部座席に長くなり、おれが助手席でナビを務める。
カメの口もとには、いつものラッキーストライクでなく、
ストロベリー味のキャンディがくわえられている。
エンジンがかかると、
カメは一度だけスラムを振り返って、それからジンを見て、おれを見て、
アクセルペダルに足をかけた。
久し振りでなにをどうしたらいいのかわかりません
こないだカラオケで歌ったラルク兄さんのドライバーズハイのPVが、素敵に中二病だったので、多大なる影響を受けて書きました
かしこ@虹マニアの影響ともいう
強引にクリスマスに結びつけたらわっけわからんことになってもた
AKPが三人で仲良しなのがいいかなと思って
ちなみに作中の棒付きキャンディーはすべて、●ュッパ●ャップスのつもりです