あ、キスされた
あ、キスしてやがる
あ、キスしやがった
あ、キスしやがった死ね
たぶん四人四様、思いはあったろう。
おれだけが
キスだなんて意識はなく
頭の中からっぽで、
だから夢詰め込めるような気がする、
ドラゴンボールの歌詞がぴったりの気分だった
で、どうなったかといえば
意外にもおれは、上田でも田中でもなく、山下に胸倉を掴まれていた。
さらなる追い打ちを目論んでいた右腕を浮かせたまま、上田はヒュウと口笛を吹いた。
田中はさも面倒そうに舌打ちを響かせ、ぺたぺたと内履きの踵を踏みつぶしながら階下へ降りてきて
形だけという具合に、上田の腕を一応止めてくれる。
「仁、てめー。何考えてんだ」
ダチでも許さんっつのと山下に睨まれ、脅され、
先走った自分を冷静に見つめる、
少しずつ、自分のおかれた状況に気づく。
こういうことは昔からよくある。
もともと、難しく考えることは得意でないので、
ショートを起こさないように脳が防衛本能を働かせているのではとおれは思う。
「え、おれ、うそ、」
「うそ、じゃねーよ!!かめに謝れ!!」
真剣に怒鳴られている、鼻先十センチに親友のビューティフェイスというこの状況。
その向こうで唇を押さえて呆然としているのが片思いの相手。
山下はまた、かめと言った。
そんなことがどうしたって気になる。
おれの優先順位はきっといつだって間違っているけど、でも大好きな人に向かってまっすぐだ。
「かめを押しつぶしたかと思ったら、なんで急に、急に、キ、」
そこで言い淀んで、山下は気まずそうにおれの制服の襟を振り払った。
解放された首まわりが、鮮度の良い緊張でぴりぴりする。
あまり使用されない階段に男が五人、
埃っぽさと薄暗さに鼻がひくつく。
沈黙を破るのはそんな空気をいつも纏っているような、やっぱり田中だ。
「まあかめの大親友であるおれの分は、ボクサーが右でいってくれたから良しとしよう。」
ポケットに片手を突っ込み、もう片方でべしべしと、自分の首の後ろらへんを叩きながら、
独自の理論を展開。
おれを、誰がどう殴って、かめへの不始末に対する処分とするか検討しているらしい。
つまりリンチじゃねーか。末恐ろしい男だ。
押しも押されもせぬ迫力、割と小柄なのに。
最近はこれがこいつだとなんとなく理解できるようになってきた(理論の中身のほうはさっぱり理解できないが)
へんてこな雲行きになってきた。
「上田はまあ、さっきの一発で収めたほうがフェアだと思うし、
でも山Pは一回いっときたいだろー?」
け、と山下は視線をそらす。親友は殴れねーよ、とかっこつける。
親友だからこそ殴ってやれ、だとか暴力ボクサーはそそのかすが、山下はぺちんとおれの頬をはたいて終わった。
ちくしょうかっこつけめ。大好きだ。
「王子様はキャラ守るなぁ」
「んーなんじゃねえけど、・・・おれなんかより、かめだろ」
だなあ、と田中は頷き、上田はかめちゃん、と亀梨の肩を抱く。
あらためて亀梨の姿を見て、
そこで初めて、おれは自分のしでかしたことのとんでもなさを知った。
別に誰に殴られようが、それなりに痛い思いはしたしさせてきた人生で、
そこはいいんだが、
亀梨はへたへたと座り込んだまま、さっきから何もしゃべっていないことにようやっと気づいたのだ。
おれのばかたる所以はそこらへんにある。
おれなんかの代わりに痛い思いをさせて、直後にそいつ(しかも男)からキスまがいの行為を受ければ、
亀梨のように非日常とは縁遠い陽だまりちゃんは
そりゃあへたり込むだろう。
おれは急に、上田に殴られた頬が痛くなる。断罪されている。
「で、どうすんの、かめ?」
田中が亀梨の肩をぽんぽんと叩く。
亀梨はゆっくり、自分の唇から指を離し、顔をあげる。
まず田中を見て、それから上田を見て、次におれを避けて山下を見た。
(ぐさりとおれの急所に、おひさまの匂いのするナイフを投げつけられた気分だ。
派手に傷ついたが、地味に拳を握り締めるだけにとどめた。)
「こうき」
「あいよ」
「た、たっちゃん、やまぴー、」
「どした」「なあにかめちゃん」
「あの、おれ、く、くち、全然、
・・・おれ、いやじゃない!」
陽だまりちゃんは、次に全員におひさま爆弾を投げつけてきた。
うるうるの目が黒髪の檻に閉じ込められてもったいない。
そう思ったので、爆撃を受けて負傷中の他三人を出し抜いて、
(同じく爆撃を受けて黒こげていても)おれは立ち向かった。
ふらりと近づき、衝動のまま前髪をかきあげてやると、亀梨はひゃあと可愛く驚いた。
間近に見て、唇がやっぱり赤くなっていて、申し訳ないと思う気持ち80%、
色っぽいと思う気持ち120%。
標準を振り切るくらい、おれは亀梨が好きだ。
好きなのだ。
だから、
「ねえ、亀梨。いやじゃないって、どういう意味」
上田にあと三十発殴られてもかまわないと腹をくくる。
今行動を起こさないでいつ起こすのだ。
「ねえ、おれは亀梨が好きだよ」
装飾せずに。
(まあ、こういう場面で気の利いたセリフの思いつく器量の良さがあれば、こんな状況に陥ったりしないのだろう)
亀梨はぽかんとおれを見上げた。
それから、人間ってここまで、というくらいに真っ赤になって、
(頭の回らぬおれは、亀梨がほんもののおひさまになって発火してしまわないか心配した。)
そのまま熱に浮かされたように
「おれ、おれっ、
一学期からずーと、赤西くんの背中ばっかり、みてたんだよ」
あわわ
夏が終わったら春が来たようだ。
「ぎゃあああああマジかあああああ」
ショートを回避しようと頑張ったけど無理だった脳は暴走し、
おれの両腕と口に勝手に指令を出して。
すなわち、亀梨を抱きしめて、喜びのまま吠えた。
「ちょ、あかにしく、耳と体いたいよー」
くすくす肩口で笑われて、ああもうどうしていいかわからない。
うれしいたのしいだいすきと何かの歌のタイトルが、まぶたの裏でちかちかする。
日差しは、いよいよ終わる夏の、最後の意地みたいに暑苦しいものではあったが
踊り場の遥か上のほうに設置されている窓から、亀梨とおれに(実際は他三人にも)降り注いでいて、
映画か何かみたいに都合よく、素敵な一場面、
おれの頭の中ではリンゴーンと祝福の鐘が鳴り響いた。
・・・対照的に、「うそーん」とつぶやいたのが山下、
「かめ、ちょお趣味わるくねえか」と無礼千万は田中、
冗談でなく、おいおいおいとマンガのように泣いた上田には、
一か月間奴隷として扱われたことも明記しておく。
なんとか終わらせるための急展開に、私が一番ついていけない
だれかPを救済する措置を・・・
前回とか前々回とかの伏線じみたことがらもあまり回収できないまま終わります・・・すみませ
もしかしたら「ぱられる」で続くかも