可愛い可愛い、
おれの、
おれだけの。
ディクタトール
他国の王であるとか、男であるとか、そういったわずらわしいことなどどうでもよい。
おれは和也が何者であっても構わないのだ。
実の兄弟だと言われても、親の仇であったとしても。いっそ人間でないとして、なんら問題ない。
おれの魂の餓えを癒してくれるのは、この世に和也しかいないのだと本能がおれに知らしめた。
おれは幼いころから、ほかに何も欲しいものがなかった。
金や地位や、親の愛や。何にも興味を示さない子どもであり、
それは強がりなどでなく、真実必要ないと思っていた。
燃えさかる内なる悪魔は、浅ましく血を欲したが、それはおれ自身の、望みではない。
時折悪魔の求めるままに振る舞えば、視界を染める血の赤が少しの安堵を与えてくれた。
周囲は血を好む好戦的な王であるとおれを評すが、本来のおれは全くもって、ただの木偶である。
無感動で、無趣味で、目に映る何もかもがどうでもよく、
悪魔の囁きにのみ流され動く、ただの凡民だ。
ところが、そんな凡民たるおれを、
おれの意思そのものを突き動かすただ一つの存在に、
おれは出会ってしまったのだ。
まだほんの子どもで、王位継承の権利すら持たなかった頃のこと。
父王と、多くの兄弟たちとともに、
隣国との同盟の継続を誓う儀に立ち会う機会があった。
ああ、こいつ、おれと、同じ、だ。
出会った瞬間、それは確信した。
仁と名乗ったその剣士は、幼いながらも、隣国の王の守護者として深々と礼を忘れない。
しかし、だ。その男の身の内に巣食うものが、おれの中のそれと共鳴して叫びくるっている。
この男も、所有している。おれと同じ飢えを、慟哭を、浅ましく血を求める、赤い炎を。
おれが七つ、男が九つ。
相手も感じ取っているのだろう、おれの正体を。
目が合った瞬間に伝わる、驚き、戸惑い、畏怖と、同族への激しい嫌悪。
そして。
「かず、でてくんなっ・・・」
「なんでだ、バカじん。おれも挨拶をしないと。」
男のマントの後ろから、ちいさな影がすべり出た。
栗色の髪に、好奇心に色めく瞳。
父たる王に手招きされたその子どもは、王政を継ぐ者として威風堂々、幼いながらに自信に満ち溢れていた。
聞けばおれと同い年だという。
高潔に振る舞う、綺麗な子ども。
それが和也だった。
他に勢ぞろいした王子ども(継承権の高い者たち)に次いで、おれに握手を求める。
王位に就くことなどないと思われているおれにすら、和也は優しかった。
純粋に和也はまぶしく、おれの血と闇にかすんだ目にははっきりと映らない。
ただ、憧れた。
掌に温もりを感じ、これがずっと欲しいと思った。
それを手に入れている、仁という男が、憎いと思った。
それらはすべて、はじめての感情だった。
その感情こそが、動機、である。
おれは次々と兄弟を手に掛けた。
それとわからないよう、狡猾に、
ときには、証拠の残らないながらも、はっきりと悪意を示して。
和也と出逢って半年の経つころ、おれの兄弟は半分になっていた。
和也と出逢って一年経つと、それがもう半分になる。
やがて最後の一人が、おれへの呪詛の言葉とともに息絶えるころ、
父はおれを殺そうとした。
国民どもは、呪われた王族だとか、王位に目の眩んだ冷酷で暗愚な王子の狂気だとか、
好き勝手に囃し立てており、
それが煩わしかったので殺されておいてやった。
このまま王位に就いても、おそらくすぐに謀反に倒れることになるだろう、
それは賢明ではない。
そこでおれはしばらく、自ら身を隠すことにしたのだ。
父王はおれが雲隠れしている間、これでようやく悪夢から解放されたと胸を撫で下ろしたことだろう。
しかし国民は愚鈍にも騒いだ。
「王位に目がくらんだのは父王だったのだ」
「父王が息子たちを皆殺しに」
「智久王子も結局は殺された、きっとすべては父王の企みだったのだ」
おれはきっと、ただの凡民より、ほんの少し頭のよい子どもだった。
雲隠れの理由を、父に毒を飲まされ、長いこと重体であったとした。
父を失脚させたのち、おれはあたかも悲劇のヒーローを気取って再び公の場へ躍り出て、人民の信頼を思うまま得、
王冠を頭上に迎えることとなる。
家臣も民も、ただ一人の王家の奇跡の生き残りを大いに喜んでくれたように思う。
ああ、笑える話だ。
父も、兄弟も、家臣も国民も、おれ自身でさえも。おれにとっては手段でしかない。
和也を手に入れるための、布石でしかない。
罪悪感など生まれようもなかった。
ただただ、欲しいものに忠実な幼子のような己を、いとおしいとさえ思えた。
どんな形であれ自分をいとおしむなど、経験のない感情で、
和也は本当に、おれにいろいろなものをもたらしてくれると改めて感動するばかりだ。
その後数年、おれは努めて穏やかにおだやかに、
王としての務めを果たした。
そしてだんだんと、静かに静かに、国を支配する、
自国の兵を鍛え、最もらしい理由をつけて多くの国と刃を交えた。
民も家臣も、気付くのが遅すぎた。
おれは王の器ではない。
ただの、恋に狂った破壊者でしかなかったことに。
「戦をしよう、和也よ。」
おれの最上級の贈り物を受け取った、
和也の表情といったらなかった。
件の剣士に守られて、ぬくぬくと健やかに育った、おれの和也。
ああ、もうすぐ。
おまえの大切な剣は、盾もろとも打ち砕かれ、
おれのもとへとおちてくる。
その男を踏みにじる様を、おまえの鼻先へ突き付けてやろう。
泣き、叫び、悲嘆にくれるおまえはどれほどかわいいだろう。
そしてまた、それこそが、その悲劇こそが、
おれの餓えを癒してくれる、ただひとつ、最後の、
希望だ。
狂ってるんです、
私が
はやく先に進ませろよ本編をよぉ