おれは、ちょっといけないやりかたで

お小遣いを稼いでいる。

自分の体を、幼なじみでもある御曹司に売りつけるのが、なんというかこの上なく効率がよかったものだから、

そうしている。


だって、そうしてないと、セレブなこいつとどこにも遊びにいけないんだもん。













へんてこばいしゅん














「もーむり、かめ欠乏症でしんじゃう!!」

「えー、二日前にしたじゃん。」

「きのうとおととい、おれがどんな気持ちでかめの回復を待ったと思ってんの!」

「あーまあいいや、じゃ、三万ね」

「もー、安売りすんな!!おれの大事なかめなのに!!」


いつものように百万円の束を財布から抜いて、ぐしゃりとおれの手の中に押し付ける、幼なじみ。

(そのほとんどを貯金しているのだが、そんなことに一ミリも気づく気配のないアホタレボンボンだ)

本当はこれでも全然足りないけど、あんまりいっぱいだと、かめ怒るから…

そう項垂れるバカは、日本でいちばんとかにばんとか、そういうレベルの金持ちの御曹司だ。

なぜだかおれの幼なじみでもある。



市井のお勉強とかなんとかで、小学校中学校と彼は、立場を隠し、一般の学校に入学、

そのときのオトモダチがおれというわけだ。

当時からいたく気に入っていただいた。

おれとしても、英才教育の賜物かお勉強ができて(勉強ができるっていうのと頭がいいっていうのは違うものだ)、英語ペラペラで、

顔よし運動神経よし性格よし、隠してはいたけど育ちの良さの滲み出る、スーパーマンみたいな男と仲良くできたことは、

そりゃもう自慢だった。やつを慕うクラスメイトたちから向けられる、羨望の眼差しが、たまらなく快感だった。

仲の良さを見せつけて、幼い自己満足に浸っていた。


ところが中学に上がると、その程度で済まなくなった。

歌をうたってくれたのだ。はじめてきいた。中一の、夏だ。

この男を慕うやつら全部、殺したくなるくらい、好きになった。

誰もこいつを見るなとか、本気で思ってしまった。

そのとき、きっとおれは赤西仁が貧乏で顔も悪くて勉強できなくて性格悪くても、それでも好きだろうと確信した。

なのに、やつは(おれ以外には隠していたが)金持ちで、かっこよくて勉強も運動もできて性格もよくて、そのスーパーマンさにますますもって拍車がかかっていて、

だからもう、みんながやつにおれと同じ感情を抱いている気がしたので、

中一の秋に、懇願した。

夕方、理科室に二人きりだった。2秒前まで全く別の話題で盛り上がっていたのに、おれは突然、今しかない!と猛進し、


「じん!!おれが何でもするから、おれだけと仲良くして!」


なぜか、やつの学ランの胸倉をつかみ上げて、訴えた。はたから見れば喧嘩を売っているようにしか映らなかったろうが、

いかんせん自分が何をしているのか客観視する余裕もなかった。

なんつううざいガキだ。

我ながら思う。普通なら、え、なにこいつ、頭おかしいんじゃねえの、っていうレベルのとんでも言動だ。

ところがやつは、予想に大きく反し、見たことないくらい破顔して、


「かめ好きだ!!!」


と告白をかぶせてきやがった。

おれもおれなら相手も相手だ。

そのままロマンチックにキスを受けたが、

おれの右手は依然としてやつの胸倉を引き掴んだままだったので、なんとも不思議な光景だったろうと思う。

人体模型が夕日に照らされ、哀愁たっぷりだった。



いわゆるそういう関係になって二週間で、やつの金銭感覚のおかしさには気づいた。

駄菓子屋やら大型スーパーやらでの買い物を過剰に喜び、しかしそこで一万とか二万とか支払って食べきれない量の菓子を購入したり。

遊園地に行こうと言われ、遠足の思い出残る地元のそれかと思いきや、

拉致同然にフロリダのディズニーランドへ連れて行かれたこともある。

何気ないプレゼントで高級自転車を貰ったときはどうしようと思った。

しかし三か月もすると、それでもやつは一生懸命、一般市民なおれに合わせようといてくれているらしいこともわかった。

やつは駄菓子屋やスーパーを買収しなかったし、自宅内に遊園地を誘致したり建設しなかったし、本当はベンツをプレゼントするつもりだったが自転車に思いとどまったというのだ。


「さすがに、ベンツの鍵は引くかなと思ったんだ…」


中一の、三学期。雪の降る、13回目の冬。

おれだってまだ、じゅうぶんに子どもで、

価値観や階級の差に、違和感を覚えて一方的に引け目に思ったり、そんなことになるには幼すぎた。

それがよかったのかもしれない。おれは単純に、

おれに合わせてくれるなんて優しいなあとか、お金持ちですごいなあとか、いろいろすごいこと体験できて嬉しいとか、

そんなふうにしか考えなかった。



三年に上がってお互い、図体も態度も生意気具合も、一般男子にありがちに図々しくなって、

後輩に指図しては優越を感じ、夜遊びをしてみたり授業を抜け出しては解放を感じ、でも普通と違うのは、

それでもおれたちは女の子の話題で盛り上がることが皆無だった。

とうに正体の知れ渡っていた金持ちの御曹司、それに群がる有象無象はもちろん掃いて捨てるほどにいたけれど、

それらをあしらうさまはあっさりとしたものだった。

おれにしたって幾人かに告白めいたものを受けたりしたこともあったが、一切心を動かされることはなかった。

こんなこと、口にするのは薄ら寒い気もするけれど、つまりは中一よりこっち、

おれにはやつが恋愛の全てで、やつにはおれが愛情をかけるたったひとりだった。

親友でもあり恋人でもあり、もうその存在だけでおれの世界は満たされていた。

たとえ夜遊びするのに、映画館を貸し切られたり、学校さぼるのに黒塗りの車でお迎えが来たりしても、

そのころにはすでに、長く一緒にいすぎて感覚も麻痺していたような感じだ。

ただ麻痺しないのは、やつの歌が本当に、いつ聞いても好きだと思うその気持ちで、

いつ聞いても新鮮であるのが不思議だった、


「それはねー、歌ってるおれが変わってってるからだろうね、毎日、毎時間、

 前より少し、かめのこと好きって気持ちが大きくなってるもん」


そんな気障ったらしいことを真顔で言うから、うっかりときめいて、その日におれたちは初めての行為に及んだのだった。

中三の夏の終わり。

やつのでかすぎる私邸のでかすぎる私室、そこは空調管理も行き届きすぎていて、どうしたってそれが夏の出来事だったと忘れがちだ。

そのひまわりみたいな笑顔はしっかり、思いだすけれど。

大きな背中が、上から吹き付けるエアコンの冷気からおれをかばって冷たくて、

代わりに抱き寄せられた腕は発光しそうに熱くて、

おれは恥ずかしくて気持ち良くて痛くて大好きで、

やっぱりでかすぎるベッドには慣れなくて、でもやっぱり大好きで大好きで。そのとき考えたことは、とてもとても思い出すのだけれど。



ところが、調子に乗って少しの悪いこと(セックス含む)を繰り返したからか、おれが男だったからお金持ちのご両親が危惧したのか、それともただ単にそう決まっていたのか、

やつは予定していた(おれといっしょの)高校への進学を取りやめさせられ、お金持ちの集う学校へと入学した。

ぶつくさと両親へ恨み節をとなえていた幼なじみだが、切り替えも素早く


「でもおれのかめを好きってゆう気持ちに変わりはねえし!!」


と納得して、なんとなく寂しい気持ちになっていたおれを置き去りに、それはもう一人すっかり納得して、

なんだよその程度かよ、もっとダダこねて一緒にいるために頑張れよ、とか思った翌日に、

うちの隣の家が買収された。

突貫工事が功を奏し、二カ月でごく一般的な二階建ての隣家は、少し手狭な豪邸へと変貌した。

買収したのはもちろん、やつだ、赤西グループのおぼっちゃまだ。

この家から通わせてくれるならと両親を説得したらしい。アホすぎていっそ泣けた。そのときにしたキスはもちろんしょっぱかった。

入学式の日、晴れて工事も終わり新居での生活を始めたアホに、黒塗りのお車で門の前まで送り届けられ、おれは一躍有名人となった。



高校生活も三か月を過ぎると、少しずつ周りが見えてくる。

高校にはあいにく、脳みその詰まり具合も家庭環境も味覚すら、同じような奴が集まっていたので、

やつに侵されて麻痺していた脳内感覚は、かさぶたをはがすようにぺりりとはがされて、

それで普通だといたく理解できた。

やつは特別なのだと、わかっていたのだけれど、あらためてもう一度わからされたような。鈍い衝撃だった。

高一男子なりに悩んで、どうやって付き合っていったらいいのかとか、男の沽券に関わる部分をたいそう考えた。

出した結論が、

自分の金は自分で出そう、だった。

赤西グループが倒産してもおれが養えるような甲斐性をつけよう、そこだった。

高一男子によくありがちな極論主義だが、世の理に触れたような顔をして、おれは得意満面だった。

だがまだまだバイトするにも限界があるし、でもやつとは今までどおり遊んでやりたいしで、

思いついたのがばいしゅんだった。

貞操観念とか常識とか、罪悪感とか知識とか、いろいろ足りていなかったおれはあっさりと切り出した。


「カラダ負担かかるし、えっちいっかい、3万ね」


まあアホの子だ。

しかし相手もおれに輪をかけてのアホなので、


「なにゆってんの、100は出すよ!!」


単位は円でもドルでもなく、万だというのだから本当に面食らった。

金銭感覚だけは常識に近づいてきたおれだから、こいつはもう本当にボンボンすぎてだめだと思った。

騙されやすいぞこいつは、おれが悪い奴から守ってやらないと、そこまで考えたものだ。

仕方がないから、もらった金のほとんどは大事に大事に貯金している。

赤西との交友の上で必要があればそこから使用するが、あとは一切手がつけられていない。

そろそろサマージャンボの最上当選額に匹敵しそうなくらいになってきたから、困っている。

金額が増えるたび、そこから割り出されるえっちの回数を思うと、なんだかいたたまれないのだけれど。

赤西グループが負債を抱えたりすることになったら、これを使ってもらおう。

一生そんなことがないなら、おれかやつかが死んだらどこかに募金しよう。




そんなことを思いながら、

おれは今日も、やつの手狭な豪邸でへんてこなばいしゅんに励んでいる。


高一の、秋、

一年で一番空が高い、馬肥ゆる秋、

背伸びして空を押しても押してもちっとも手ごたえがないのに、

食欲ばかり旺盛で

少し困る。











タイトル負けの内容ですみませ