つくづくアレな父と子の気恥ずかしい話 





お父さんは、不器用で不真面目な、それでも十分な愛情を、

おれにくれたとそう思っている。

お父さんの大きな腕に抱えられると、嬉しいようなこわいような、今すぐ逃げ出したいような、それでいて誰かに自慢してまわりたいような、

とてもおかしな気分になる。

そのまま聞くお父さんの低い声は、なぜかいつも、驚くほどにおれの耳にしみた。


今日もお父さんは、おれを片腕に軽々抱え、

執務室の窓からスクアーロを遠くにのぞむ。









血統









高い位置にある防弾ガラスは、分厚いけれど、

戸外の景色を完全に見渡せるほどにクリアだ。

つまりは、窓の下の庭において、ベスターの毛並みを手入れしている、

きれいな銀色の閃きがとてもよく見えるということだ。


お父さんはおれを抱えながら、一度たりともおれを見たりしない。

戦闘対象に臨む以外は、お父さんの視線は近年、たった一人にしか注がれ得ない。

隠そうともしないのが、天晴というかなんというか。

どちらに向いているのか分からないような妬心を、ついこの間まで燻らせていたが、

さすがに八つの誕生日を迎え、なんとなく、それでいいやと思えるようになってきた。

世の中のおよそほとんどを面倒事と分類して生きているお父さんだが、

その面倒の種しか運んでこないような子どもを、おれを、

今日まで粛清したりせず生かしてくれた。

きっと、スクアーロの次くらいには、おれを大切に思っている。

はたして、これ以上何を望もうか。


「お父さん」

「なんだ」

「どうしてスクアーロなんでしょうね」

「…おまえはどうにも、最近生意気が鼻につくな」


心底呆れたように呟いて、右腕から左腕へおれを抱え直す。

余した右手で、デスクに置かれたブランデーのグラスを煽り、ため息を吐く。

お父さんの首筋から、いつものムスクに、酒と不機嫌が混ざって匂い立つ。

この人は見た目より実はずっと、わかりやすいと、最近になって理解した。


「強いし、あれで有能だし、忠実だし、愛をくれるし、

 …どれが一番の理由なのかなと思って」

「さあな」

「おれこそがあれを欲しいと言ったら、そのたびに、不適切な性教育をしていただきましたっけ」

「そんなこともあったか」


悪びれた風もなく、グラスをデスクに戻せばこつりと硬質な音が響く。

お父さんはやはり、最愛の人を見る。

おれは思い切って、とても仲の良い普通の親子のように、普段はスクアーロにそうするように、

お父さんに抱き着いてみた。

顔をうずめた首筋に、内緒ごとのように、訊いてみる、


「いつから好きなの?」


ムスクが揺れる。

見ていないが、お父さんは笑った気がする。


「…もう忘れた」


常にないような小さな声でささやいて、

おれは反射的に顔をあげて、

お父さんはそこでようやく、今日初めて、おれを見た。

おれと同じ真っ赤な眼が二つ、まっすぐおれを見据えたので、おかしな既視感に陥る。


「じゃあ、どこが好きなの」


お父さんは今度こそ笑う、



「…、きれいだからじゃないか」



窓に視線を戻す、

本当に眩しそうに目を眇める、


おれは驚きすぎてしばらく口がきけなかった。





話題の麗人は日差しの下、銀を翻しきらきらと笑っている。










最後の一文の蛇足加減といったらない
ぎらぎら笑う鮫たんをかきたいです