足元に這いつくばる下等生物(少なくとも彼にとっては)に、死ぬほどの侮蔑を浴びせて、それでようやく踏みつけている足は満足した。
死に際は美しくないといけない。
近年そのような殺しができるのはとてもまれだ、ほとんどがこのように薄汚く助命を乞い、
それが叶わぬと知るとおまえを呪うだのこの世への未練だのつらつら醜く吐き出してやっとのこと、静かになる。
いつだったか、誇りの為にとほほ笑んだまま殺されてくれた標的がいて、あれは本当に素晴らしい死にざまだったと振り返る。
よくよく思えば、あれも彼の育て親と同じく、剣を生業としていたつわものだったわけで。
比較して、本日の獲物は外れも外れ、大外れだとひとりごちて、まだあどけない指先はためらいなく撃鉄を起こす。
「おまえにとって、その糞みたいな一生をそれでもピリオドで美しく結ぶ、唯一の機会をくれてやったのにな。
インクを黒くぶちまけて、お気に入りの一節すら見当たらないまま、みっともなく未完で終われ」
心底哀れそうな顔をして、あっさりと引き金を引く。
不快だった、
断末魔まで驚くほど醜かった。
血統
帝王学や経営学、そういったもののほかに、暗殺についてのあれこれを身につけるべく、
彼は彼の家族ともいえる存在から、幼少の砌より指南を受けてきた。
どれくらい幼いころからかというと、今現在立派に任務をこなす彼はまだ十を数えたばかり、それで窺い知れるというものだ。
他の子どもたちが興じているような遊びや遊具になど、彼は一片の興味も持たなかった。
興をそそられるというなら、いかに強くなって、それでいかにして父や周囲や、何より愛しい狂える鮫に認めてもらうか、それしかなかった。
リオーネ、と、幾分も気恥ずかしいような名を戴いていた彼だが、今では誰しもが彼を恐れ、その名を聞いて震えるものはあっても笑うものなどいるはずもない。
まだ幼いと高をくくって接触したなら、青年も老人も、手練もそうでないものは勿論のこと、3分のうちには腰を抜かし、
この子どもの皮を剥げば中から父親が出てくるのではないかと背筋を震わせるのが常だった。
リオーネは、ただの肉塊となった標的に一瞥のみくれてやって、それで忘れた。
よほど有意義な考え事で脳内を満たす必要があったのだ。
午後にある父と鮫との食事会に遅れぬように支度をしなければいけない、鮫への贈り物は何を選ぼうか、花束か髪留めか、はたまたスーツでも仕立ててやろうか、
彼はまるでただの子どものように目を輝かせるのだった。
しかしなんのことはない、食事会は延期の運びとなった。
無用の長物と化した、ドレープコートが収まるプレゼントケースを談話室に放り投げ、
幼い苦労人は、怒り半分呆れ半分で父の寝室を目指す。
今日は大層なことで、鍵までかかっている。
出力を大変におさえて、右手に宿る炎で扉ごと焼き切り、あとは踵のあたりで蹴破れば、
彼の予想の通りといおうか、鮫の美しい銀糸はシーツの波に飲まれかけている。
イタリアの男というのはこれだから、とシーツの飛沫を浴びた気分でげんなりするリオーネは、サイドテーブルに腰かけ、こめかみに手をやる。
養い子のため息に気付かないはずもなく、もうそんな時間か!?と慌てる麗しの鮫は、武骨な太い腕に阻まれて、シーツの海でまた溺れる。
ますます呆れ果て、開いた口もふさがらない。
ザンザス、ザンザス、と上ずった声が耳殻を揺すぶる。
その他大勢の男どもと同じように、彼も、勿論彼の父親だってギャップに弱いわけだ、
普段はぎゃあぎゃあやかましく、戦闘となれば鬼の形相で標的を狩る狂える鮫が、
腕の中でこうもしおらしく豹変するとなれば、可愛くないわけがないのだ。
雨と夜を付き従える男であるが、鬱陶しいほどに晴れた真昼、それにもまたスクアーロは映える。
引かれたカーテンの隙間、差し込む陽光が銀色を愛でる。
ああこれは、やがて日が沈むまでは続くのではと、半ば確信めいた予想にうんざりして、
リオーネはつかつかベッドに歩み寄り、
「おれに割り込まれたくないのなら、あと一時間のうちに、
それの身なりを整えてとっとと食堂にいらしてくださいね」
不満たっぷり呟くと、父親がおかしくてたまらないとばかりに笑う、
愛人の生白い足を軽々抱え上げて、
「…二時間後なら今度こそ、約束してやる」
仕方なし、承諾の意として肩を竦めてやる。昼食は夕食に変更だ。
あとでまた、(意外にリオーネに対しては慎み深い彼は)羞恥に部屋に閉じこもるのだろうなと、これもやはり確信に近い予想、
しかしザンザスがその髪を引っ掴んで引きずり出し、約束の二時間後にはいずれの形でも、食卓は賑わうのだろう。
父親にペリエのボトルを手渡して、意識を飛ばしかけているほうの保護者には、(後に無体に扱われるであろう)銀糸に口づけ、
それでもう一度ため息。
「悪かったな」
片手間のような、頬へのキスで、髪も腹も真黒な父親は、真っ赤な瞳で息子をもたらしこむ。
そうしてその双眸は、また愛しいものへ視線を注ぐ。
こういうところが心底、ずるいとリオーネは思っている。
男も女も、老いも若きも敵も味方も、この瞳には丸め込まれ、畳み掛けられてねじ伏せられる、本当にずるい、と。
しかし彼もまた、
その赤を、所持している。
幼すぎて正しく理解していないが、彼の血も、瞳も、父の赤を色濃く引き継いでいるのだ。