「あ、沸いてるから、風呂はいってきな」

「あー・・・うん。わかった」


ジャンケンで負けたじんが食器を洗っていて。

ジャンケンで勝ったかずやはリビングのソファにもたれかかって、おにいちゃんに命令した。

おにいちゃんはこれがじんなら絶対何か文句を言うのに、かずやだと何も言わない。

あたしはなんだかすごく腹が立って、でもそれはなんなのかわからないから、おにいちゃんのバーカと小さな声で言ってやって満足した。


「かずー、佃煮どぉすんの」

「あ、いつもんとこ片しといて」


じんは佃煮の容器を冷蔵庫におさめた。リビングとキッチンが一続きになっているから後姿が見える。

かずやは変わらず、ソファでテレビを見る。つまらなそうにチャンネルを回している。

あたしは、かずやの足元、カーペットの床に腹ばいに寝て、見てくださいとばかりに転がったおにいちゃんの携帯電話をいじっていた。


「にーちゃんに叱られるぞ」


かずやはあたしを抱っこして持ち上げて、ソファの隣に座らせて。


「べつにこわくないもん」


それでも携帯をかちゃかちゃやった。


「お、反抗期」


片付けを終えてキッチンの電気を切ったじんが、あたしをからかう。

そのままリビングまできて、あたしの手から薄っぺらい携帯を取り上げた。


「で、なんの画像見てたんだー?」

「おにいちゃんの彼女」

「うっそ、アイツそんなん撮ってんの」


興味のないテレビ番組よりは面白いと思ったのだろう、かずやも話に混ざってくる。

途端にじんはすごく嬉しそうな顔をする。

じんはいつも、かずやが大好きだ。ってすぐ分かるような顔をするから、だめだ。


「あーなんだっけこの子の名前、ミケ?」

「ミキちゃんだろ!ミケって猫じゃねんだから」


だから、あたしはふと、かずやにイジワルをしたくなった。


「かずや、おにいちゃんの彼女ってキライだよねー」


かずやの肩がぴくんと跳ねる。

じんの手の中の携帯電話の画面が、一定時間触らずにいたからか、フッと暗くなる。


「前のときなんかどこがいいのかわかんないとか言っちゃってさー」


言ってから気付いた。

かずやの、ちょっと落ち込んだような横顔。俯く視線。

落ち着きなく何度も瞬きするのは、かずやが、自分が悪いんだと知っているから。

こんな風な辛そうな顔をさせてしまうなんて、

ああまた、あたしはあたしが嫌いになるし、

あたしは結局かずやが大好きなんだと確認してしまう。


「・・・・・そー、だっけ」

「いーじゃんかそれはもう、な」


じんは困ったみたいに笑って、隣に座っているあたしを通り越して、かずやの肩を抱く。

優しくてあったかい手は、きっとかずやが殺人犯だとしてもそうしていたんだろう。

なんて、じんは、素敵なんだろう。


「オカアサンてのは息子のカノジョって許せねえもんなんだって」

「誰がオカアサンだよ!」


とんとんと指先でなだめてもらって、かずやはまた笑顔になった。

じんはなんでもないことのように、携帯を閉じて、ソファの端っこに投げ捨てた。

かずやはそれを目で追うけれど、すぐにまたあたしのほうに目を向ける。



「・・・ま、というわけで。」



ゆっくり、喋るその声が、いつもよりなめらかで。

なんだかちょっぴりこわくなった。


あたしはじんとかずやのちいさな変化に気付いてしまった、

気付かない振りをしてそのまま自分の部屋に逃げてしまいたかった。









かずやがマグカップにココアを入れてもってきた。

じんにはコーヒー、自分にはタバコとライター。

カチッと音がして、いつもなら子どもの前では吸わないって決めてるらしいものに火が灯った。


「・・・おれから言う?」

「ばか、おれだ。」


じんがコーヒーを啜りながらかずやを見た。

かずやがタバコの白い煙を細く吐きだしてあたしを見た。

かずやはソファに座っているあたしの前に、立てひざして、視線を同じにして。


「なぁ。今日さ、話してたこと。悪い、にーちゃんに聞いちゃった」


かずやの目は一生懸命だった。

かずや実際のところ、愛想いいくせに人と目を合わせるのが得意じゃない。

それは別に相手がどうこうじゃなくて、照れ屋さんなんだよ、とじんが前に言ってた。


「・・・お、にいちゃんのおしゃべり・・・」


かずやは今、あたしとしっかり目を合わせてる。



「おれさ。・・・じんのこと、おまえにあげらんない」



手元のタバコの灰が落ちてカーペットを焼いたのに、気付かない。

じんはいろいろ慌てた。


「バッ、かずおまコドモになにゆって・・・!てか手ぇあつくねえ!?大丈夫!?」

「ちょもう、黙ってろ」


あたしはもう、ぐるぐるぐるぐると世界が回っている感じがして、

かずやの真剣な目がぐるぐるするこの世界のたったひとつの目印みたいな気がして、

それを見失わないようにするので精一杯だった。


「おまえがどんなにじんを好きでも、じんはおれが好きだ。おれもじんじゃないと無理。

 ついでに言うならじんがおまえを好きになったとしても、おれは手放す気はないから。」


だめ。

いわないで。


「おまえは女の子だから、おれにないもの一杯もってる。

 すげぇライバルなんだよ。だから負けらんないの。」


だめ、いわないでほしい。

(でもちゃんといってほしい)




「おれは、カワイイおまえを押しのけたって、じんを愛してる」




ああ、どうして

どうして

いちばん納得できなかったことを

いちばん納得できるやりかたで

言ってのけるんだろう・・・。


だれも、じんすら、

コドモだって理由で相手にしてくれなかったあたしの逃げ道のない

痛くて痛くて可哀想な可愛い思いを

そのまま受け止めて投げ返してくれるのが

かずやなんだろう。


あたしは泣いて泣いて泣いて

じんがあたしを膝の上に抱っこして

かずやはゆっくりタバコを消してあたしのおでこを撫でた。


あたしはそのうち疲れて寝てしまって

寸前

あたしをあやすじんの指にきらきらひかるものが、

かずやの胸で堂々と揺れる指輪と同じものだとぼんやり思った。

さっきのことを思い出した。

かずやの特別な日だったんだ、今日は、


あたしのための。









そのうちじんが普通のパパに思えるようになって

そのうちじんがただのオジサンな感じになっちゃって

そしたら

あたしもかずやみたいに

・・・ママみたいに


がむしゃらでかっこいい恋がしたいな


そう考えたらなんだか

いきなりじんが好きで好きで好きで好きでたまらなかったことが

少し照れくさく思えてきた、



少しはおとなに近づけたのかな、

明日はあたしの誕生日だ。



















こどもたちに名前がないのは不自然かなぁとは思ったんですが思いつかなかったんで・・・
どなたか名付け親になってやってくださいませんか(笑)

akは外見はあんまりトシをとらないというなんでもアリな設定で。
サザエさんかよ!

というか改めて考えるととんでもない設定だ・・・。
なにより初めてだよ!「じん」「かず」て呼ばせたの!!