ザンザスが菓子をくれた。

日本製の、あまったるくてやりきれない、綺羅星型のそれで頬袋をいっぱいにして見せたら、

閃いたような顔をして、

今度はリスの尻尾のような、やはりあまったるいパンケーキを寄越した。

グラツィエ、ありがとう、と両方の言葉で感謝を述べれば、

カプリチョーゾ、と低い声がすぐさま聞こえる、これはイタリア語のみで応答された。

冗談のようなやり取りだ。

たった二時間前、密通者を消し炭にした指先から菓子をほどこされ、

一時間前までさんざ商売敵を斬り散らした指先でそれを受ける。

命も菓子も、匣も相手の快楽も、指の先ひとつで操る。


それでもってしてようやく、おれらだった。






剣だこに蹂躙されて久しいおれの手とは比べ物にならない。

ザンザスの指先は、炎を、怒りを、粉々のグラスを受け止めてなおピアニストのようにきれいだ。

それが真剣に、ジェット機の操縦桿を操っている。

常になく、おれが日本の菓子を喜んだことを気に入ったザンザスは、翌日には自家用機におれを乗せ、日本へと発った。

もう驚かない。

今日のおれの任務をあっさりレヴィに押し付けたことも、眼下に広がる海にも、旅客機の操縦がまさかできたことにも。

それらをやってのけるのが、どうやらおれを喜ばせてやりたいというそこに起因しているらしいことも。


ようやく、この男も、人並みになったのかと思う。

もともとキャパシティの少ない懐をなんとか押し開いて、そこにおれと、ベスターぐらいは入れてみたらしい。

この男らしく、懐をこじ開けたのがある日突然だったものだから、そうなった当初はそれはそれは驚愕したわけだが、

その日から二年が経過した今では、ただ嬉しい。

人殺しが何を、ちゃんちゃらおかしいとよく言われるが、それはとてもおかしな理屈と思う。

人間を星の数も消し去り、その家族を絶望に叩き落とし、ほしいものは残虐の限りを尽くしてでも奪い取る、それがおれたちで、そんなことは当たり前だ。

それでもおれは、ただ、ザンザスが幸せで楽しくて嬉しそうなら満足だ。それでいい。

人を殺したからといって、それが生業だからといって、おれたちが幸せであってはいけない理由などない、熱心な神教徒が罪悪感がどうこう抜かしたところで、 もともとおれやザンザスにそんなもの備わっていなかった。

牛を殺してその肉を食べたからといって、一生神に許しを請うて生きるか?人間も牛も動物だ。殺されるように生まれてきたのが悪いのであって、捕食者に責め られる謂われはない。

だから、ただ嬉しいのだ。人並みに嬉しい、おれだって。

ザンザスが、おれに優しくするようになった。殴った拳で、手当すらすることもある。


上昇をやめ、いくらか安定した機内で、ザンザスが匣からベスターをおもむろにとり出し、喉元を梳いた。

それからおれの髪も同様に、最後に操縦を自動に切り換えた。


「ベスター、見てろ」


などと言うから、これから始まる行為をか、と悪趣味を疑いかけたが、どうやら異常がないか操縦席で待機しておけとの命令だったらしい。

果たしてライガーに機長の代わりが務まるのか甚だ疑問ではあるが、今の時代の自動操縦技術は信頼に足ると判断し、

おれはザンザスの首筋に縋りついた。

すぐに後頭部と腿のあたりを、髪ごと抱かれて後部座席へ。

十代の頃は、男の本能として、組み敷かれること自体が恐怖だったが、本当にこわいことを知ってから、足を開くくらいどうってことなくなった。

それでこの男がどこにもいかないというなら、いくらでも、なんでも差し出せる。

ワインを飲みたい、とねだれば、ウイスキーしか持ってきてねえ、と耳にかぶりつかれ、

じゃあビールでも、と続ければ、おれの機嫌を損ねておまえにメリットがあるか?と目蓋を舌先でつつかれる。

ちっと早いが祝杯だぁ、日本で菓子にしか用がないわけでもないだろぉ、と嘯けば、これだから敏い女は好かない、と興醒めしたように髪をもみくちゃにされ た。


「おまえの可愛い鮫はよぉ、キャビア孕むかわりに、女じゃないっつう信頼をくれてやってるだろぉ」

「二つ名に違わん傲慢さだなクソ鮫」

「女じゃなくて、てめえの手足で、そんで剣士だぁ!上等すぎて涙が出るような恋人だろぉが、おれはぁ!」

「濡らさねえで突っ込むぞ、本気で萎えるからそれ以上喚くな」


本当に鬱陶しそうに、がつんと殴られて、そのくせ殴られた頬をあっさり舐めて癒されて、その矛盾にたまらなく欲情した。

別にどうだっていいのだ。日本に行く目的がただ菓子の購入であれ、他にどんな手土産付きであれ。

計画はザンザスの頭にさえ入っていればよいもので、おれはただの刀、つまり武器でしかない。

菓子をたらふく味わっていた最中だったとしても。この男が右手を挙げて、降り下ろしたなら、コンマ一秒後には標的を討つ。

どうだっていい、と今度は口に出したなら、ザンザスのピアニストの指先がおれの下腹部を爪弾いた。

ピアノにしては鳴りが悪い、とおれの思考を読むこの男、なんとも憎たらしい。






日本に着いてしばらく、ザンザスは本当に、コンペイトウやらカステラやら、ラクガンにアメザイクにワサンボン(これに関してはただの砂糖だという)やら買 いあさり、無理やり貸し切ったらしい高級温泉宿で日本酒とウイスキーを交互に嗜む寛ぎようだったが、

イタリアに帰るその日になってようやく、


ザンザスの右手は上下運動を行った。


舌先を転がるコンペイトウ、それをザンザスの口内に押し付けて一秒、ギターケースにしまっていた剣が相手を貫くのに一秒、後始末に三秒。

五秒のうちに、標的は完全に沈黙し、さらに五秒後にはおれたちはまたカステラを食って、意外と美味いペットボトルの日本茶に舌鼓を打っていた。

その死人は、いつだったかおれを引き抜きたいとのたまった日本の地下組織のお偉いさんだったということを、

もみ消すのに幾ら遣ったかわかってるのと綱吉からお怒りの電話を受けてようやく知った。


機上の人となって二時間、おれは今、やはり嬉しい。

自分でも仕事のためでもなく、おれのために人を殺したザンザスが嬉しい。

冗談のようにたくさんのキスを押し付けて、いつ綱吉も殺るんだぁ、と上機嫌に尋ねたら、

しこたま笑われた。


屍の山の上であんたを愛してるぜぇ、とまた唇にかみつく、

そうしたら、

その山頂にジャッポーネのクソガキどもを並べてやろうな、などとあやすような睦言を囁かれて、たまらず達してしまったわけだ。










はじめてピクシブに書いてみたザンスク