二学期の一番最初のホームルームは、やっぱりまっすぐの太陽に睨まれながらだった。
なんたっておれの席は、窓側一番前なのだ。
おおきくなる、なにか
「お、ピー、はよーっす」
「よー親友、全然久しくないなてめーは」
「しゃあねえだろ夏休みずっといっしょvだったんだもんよ!」
山下は四日前に見たとおり、男前だった。
補習最後の日、あの日も亀梨と田中、上田はさぼりだったが、山下、それにおれ。
いつものメンバーでじゃあなと言ってから四日間、こいつとはメールやら電話やら50回はした。
田中とも30回。メール無精の上田とは、15回くらい。
亀梨とは。
2、回。たったの。かわりに未送信ボックスには、10件近い躊躇のあとが残っている。
『会いたい』
そんなクソ短い上にクソ重たいメールを送信してしまったのは、8月30日のこと。
あと一日待てば会えるな、とか思っていて、思ったままを、無意識に送りつけていた。
本当に無意識だったのだ。
「送信しました」と携帯がご丁寧にもお知らせしてくれて、おれは声を出して慌てた。
「え。え、え!」生まれて初めてだったから、そんなことは。
混乱する頭に、慌てふためく指先、心臓は16ビートを刻んでいる状態のまま、二回目を送信。
『うそ!今のうそ!』
十分後、亀梨から『どしたの?』さらに十五分後に『今日、会えるよー??』と可愛らしい絵文字つきでいたわりのメールがきたが、
なんて返信していいか、どう言い繕えばいいのかもわからず
『ごめん、ちがうんだ、ただちょっと、顔がみたくって』
『ごめん、ちがう、あさってでもいいんだけど、ちょっと会えたらと思って』
・・・というような、とどのつまりただ会いたい旨を書き連ねた駄メールばかりが未送信ボックスを埋めた。
十番目の駄メール、何度読み返せど、自分でも意味がわからない、
『ピーには内緒で会ってくれる?』
おれはいったい何がしたいんだろう。ああ、送信しなくてよかった。
いよいよ迎えた9月1日、今日だ。
クラス全体がまだ夏休みの余韻で浮かれあがっている気がする。
肌の焼けた奴、宿題疲れで机に突っ伏す奴、再会を喜ぶ、顔、顔、顔。
おれとて山下とくだらない会話で盛り上がっているものの、心中おだやかでない。
つまりは亀梨の「今日、会えるよー??」を無視してしまった形になっているわけで。
言い訳のパターンを百は考えてきたおれだ。間違いメールでさ、女の子に送るつもりで、携帯の不調でさ、遊びたいって送るつもりだったんだけどさ、エトセトラエトセトラ。
緊張せずに、言えるだろうか。
「あ!おはよう」
「・・・かめ、なし!」
さあ、いよいよ、
「あ、あのさ、か、かめなし、あの」
「お、かめー!!待ってたからふつーに!!」
って、 え
「あっは、山ぴー、ふつーに、って何〜!」
「いいじゃん、そこつっこむなよ〜!ってかかめ、昨日のあれ持ってきてくれたー?」
え、え
「図書館に忘れていくんだもんなー山下くん・・・じゃない、山ぴーは。」
「あ、今度山下くん、て呼んだらくすぐりの刑な!?もーダチなんだからピーでいいの!」
「ちょ、おれほんと弱いんだって〜・・・」
展開についていけず、ただ凝視する。
「あ、そういえば赤西くん、さっき何か言いかけ、」
「仁!!」
「え?」
頭が真っ白になって、また体が先走る。
二日前の反省のまったく活かされないおれだ。
「赤西て呼ぶな!仁でいい!!」
脳のはしっこから、もう一人のおれが冷静に「何言ってんだ自分」と突っ込みを入れている。
まったくもってそうだ。
何いってんだろう。
あまりにでかい声を出したから、クラス全体が静まり返る。
本当にもう、夏休み初日の反省のまったく活かされない、おれだ。
見かねたクラスメイトの一人が、
「え、なに、亀梨?なー仁、おまえら仲良かったっけ?」
とか無礼にも訊いてくるから、ますます自制がきかなくなり
「そんなもん、めっちゃくちゃいいしッ!!」
幼稚園児のように吠えてやった、補習期間のあれこれを知らない優秀なそいつは、唖然としていた。
わけがわからず、クラスメイトにも山下にも亀梨にもなんだか猛烈に腹が立って。
亀梨にとって、おれにメールを無視されることくらい、山下との戯れに後回しにされるような、そんなすごく些細なことなんだと思うと、
あたりかまわず物を投げて八つ当たりたいような気分だった。
なんで山下は、かめって呼ぶのとか、
いつから山ピーって呼ぶようになったのとか、
昨日図書館で会ってたのはなんでとか。
言いたいけど言えない、それがどうしてなのか、
考えようともしないまま、おれはだからガキなんだ。
その点、山下はおれより幾分かは大人だったのだろうと思う。
空気を読まずに「ホームルームすんぞー」と担任がやってきて、
おれはさっさと席に着いた。
二学期の一番最初のホームルームは、やっぱりまっすぐの太陽に睨まれながらだった。
なんたっておれの席は、窓側一番前なのだ。
後ろの席から控えめな、でもしっかりとした視線を感じたが、
おれはやっぱり振りむけずにいた。
結局P→K←Aみたいなのが好きです