おれのハツコイは、男だった。

























そまらない、くすりゆび
























おれはいわゆる孤児だ。


施設では、普通に育ててもらえた。

ドラマみたいに温かすぎたり残酷すぎたり、そういう両極端なことはなく

施設として、当然のことをしていただけていた。


当たり前に処世術の身についていたおれは、自分に親がないことすらネタにできる

たくましい人間に育った。

もちろん学校でもなんら問題もなく、友達づきあいも成績の方も

一般男子となんら変わりなくやっていけていたのだ。



孤児だという事実以外になんの変哲もない、そんなおれの人生を

がちゃん、と音までたてて、レールから外す存在に出会ったのは



中学二年の春のことだった。














がちゃん、と派手な音がした。




「目ぇついてんのかこンのバカたれ!」




おれはなぜか、いきなりごろごろと道路をころがっていた。

おれはいきなり抱きしめられていて、

おれはいきなり怒鳴られていた。



「轢かれるとこだったんだぞ!」



目の前で軽トラックが電柱に突っ込んでいる。

正直、恐怖で声も出なかった。



「あ、う・・・」

「あーうーじゃねえ!前見て歩けっての」



あたりさわりなく生きてきたおれが、こんなにも他人に強く怒鳴られるなんて初めてで。

そのことと事故のショックとがない交ぜになって、おれはの奥歯はガタガタ言った。


しかし

たくましい腕に守られて、おれは初めて、

見たこともない父親を肌に感じた。

おれは不謹慎にも、喜んでいたのだ。

見も知らぬ誰かとの、最上の出会いを。




震えて見上げたそのひとは

彫刻のようにきれいだった。




















「え、しってたのおれのこと。」



後日、改めてお礼を、と自分で選んだ腕時計を持って

喫茶店に誘った。

携帯電話の番号を教えてもらっていたのだった。

連絡するときに指が震えたのを覚えている。

おれはそれを、事故のトラウマのせいだと信じて疑わなかったけれど。



「えと、テレビの人でしょ。普通知ってるから。超CMとかドラマとか出てるじゃん」



そうだった。

電話番号の上にサラサラと、男にしては几帳面に綴られた、文字。


山下智久。


天下の、と形容がつくほどに、売れっ子の、ゲイノウジン。

あー友達に自慢できるなーとか一般中学生の考えそうなことを、ご多分にもれずおれも考えていた。



「・・・最近の若い子は敬語も使えないのかなー?ついでに感謝の意もまだ示していただいてないんですが・・・

 おじさん悲しいなー」

「えー・・・た、助けてくれてありがとうございました?」



山下さんは、よろしい、と微笑んで、出されたコーヒーを飲み干した。

熱くないのかな、などと考えること自体がこどもだと思ったので、おれも同じように飲み干して、

しっかり舌を火傷する始末。

焼けた舌のまま、事故のその後の話、施設でびっくりされただの、軽トラの運転手が飲酒していただの、そういうことを

なんとなく話し込んで。

ふ、と沈黙に染まる。

緊張で動けないおれ。



「・・ま、ホント怪我なくてよかったよね、お互いに」



とにかくすさまじくオーラのある笑顔に圧倒されながら、こくこくと頷くばかりだ。

山下さんは伝票をさりげなく掴んで、「じゃ」と立ち去ろうとした。

おれは腕時計を渡そうと立ち上がり、はたと相手の手首を見る。気付いた。

長袖の下から見える白いもの、かれは包帯を巻いていた。

あのときのけが。



「っ、こ、これっ、」



とっさにそこを掴んでいた。



「いた、な、なに?」

「あ、ご、ごめんなさい・・・っ

 でもおれ、あ、・・・んなふうに庇ってもらったのはじめてで、

 ケガさせといて最低だけど、実はすげえ嬉しかったの。

 そ、それもごめんなさい」



我ながら不謹慎は自覚していたから、とにかく罪悪感だった。

なのに、山下さんはちょっと驚いた顔をして、それから笑って。やさしく、

どこまでも、やさしく。









「名誉の負傷、ってやつだ」









左手を掲げ、映画みたいに笑う。





















後日、きらびやかなステージでかれが歌う、生放送の番組を見た。

高そうな服に靴、ばっちりきめた髪形、ブランドもののアクセサリー。


左手だけの違和感、包帯の上から、

安物の時計。


おれは涙が出そうだった。







確信、これは、ハツコイだ。


























こんな出会いらしいです。
ここから紆余曲折を経て、ちゃっかりラブになっちゃうのですが、
今回は出会いのみ。

タイトルだけ先走っちゃいました