おれの中にはいつでも、くすぶり続ける焔の剣がある。

血を、

悲鳴を、

混乱を、

敵の死を、

比類なき強さをと、

渇望してやまぬ醜悪な悪魔が棲む。


おれを産んで死んだ母、多忙な父、

幼い日々、おれはたったひとり、

怖くて怖くて、怖くて、

与えられた部屋の隅、自分の影に怯え泣いていた。

いつかおれの影が、おれを喰い殺す。


父はおれの本質を見抜いていた。

たった一言、呟くように一言。


「お前の中で暴れる刃を、使いこなす主を見つけよ」


と。


そうしておれは、

和也に出会った。






















スロウン






















初めて会ったのは、父に連れられてやってきた玉座の間。

優しくほほ笑む先代の王の膝で、高圧的におれを見下ろす小さな子ども。

おれが八つで、和也は六つだった。



「おまえ、名前は?」



音もなく父王の膝から降り、彼はおれの前まですたすたを歩みきた。

子どもらしさとはかけ離れた、洗練された優雅さでその場に屈み、

敬意を払って片膝をついているおれの顔を覗きこむ。



「名前、ききたい」



生意気そうにも見える気位の高い視線は、

しかし、その歳で十二分に、己の立場と将来とを自覚した、

王たる者の持つそれだった。

そのくちびるが可愛らしくさえずるように、おれの名を尋ねている。



「じ、じんです、王子さま」



おれは震えていた。

父は畏れ多いためだと思っただろう。先代王は緊張のためと思ったろう。

和也はあるいは、おれの震えていることにすら気づいていなかったかもしれない。


おれは歓喜に震えたのだ。

おれの全てを預け渡す人間に、出会ったと思った。



「いい名前だ。おれは、かずや。かず、でいい。呼べ」

「へ?」

「呼んでみて」

「え、えと、いいのかな、…父さん?」

「おれはとうさんじゃない」

「いやいやいや、ちがくて、」



父と王は、とうとう堪え切れないとばかりに笑い出した。

和也は、友達が欲しくてたまらないのだよ、仁よ、なってやってくれるか、

王の口からでた言葉におれは驚いた。

父はいまだ笑いながら、

本来なら、王子とお呼びするのが正しいのだろうが、和也様たってのお望みだからな、

と無責任を口にする。



「えと、じゃあ、…か、ず?」

「じん!!」



途端、

和也は花がほころぶように笑い、おれに飛びついた。

おれは怪我をさせまいと大慌てで受け止め、その場に尻餅をつく。

先ほどまでの傲慢な振る舞いが何だったのかと思わせるほど、

彼は歳相応の子どものように無邪気だった。

これからずっといっしょだぞ、稽古ごとも勉学もいたずらもぜんぶ、いっしょだぞ、

おれの耳元で興奮したようにわめく。

この子どもの中に透けて見える、王位を継ぐ者としてのカリスマ性と、汚れのない純粋さ。

両極端で、危うい、まだ六つの子ども。


おれはおれの生きる道を、この時すでに理解した。

この、小さな温もりを守るために、おれの中には悪魔がいるのだと知った。

和也こそが、燃えくすぶる醜悪な剣を収めてくれる鞘なのだと、落雷を受けたように悟ったのだ。












それからのおれたちは。

親友で、悪友で、兄弟で、唯一無二の絆で結ばれたと信じた。

経済学、帝王学、数学国学歴史、何においても和也は頭が回った。

要点を押さえ、自分にとって必要なものを見極めるのが驚異的に上手かった。

二つも歳下の彼に、おれはいつでも専属教師の出す問題集を手伝ってもらっていたのが本当のところだ。

剣術も二人で学んだ。

筋が良い和也は、きっと体を作りこめばかなりの使い手になっただろうが、

仁がおれを守るならそれでいい、おれは頭を使う仕事を優先したいからと、これはあまり真面目に励まなかった。

全幅の信頼、おれはどんな勲章より嬉しいものを貰った気がして、剣術を磨くことに心血を注ぐようになる。


和也はおれだけに、砕けてものを言うことを許した。

広い広い国のなかで、

彼を名前で呼んでいいのはおれだけで、畏まった物言いをするなと命ぜられたのもおれだけで、

まるでただの友達のように、ともに行動するを認められたのもおれだけだった。

おれの前でのみ、和也は子どもになる。

大人だろうが子ども相手だろうが、王子たる態度で他を圧する彼が、おれにだけ懐いてくれるのは

これ以上ない快感だった。

他愛ないいたずらをしては、召使や側近たちを困らせたり

護衛もつけず野原に繰り出し、思う存分転げまわっては、王や父に叱られる。

そんな心穏やかな日々は六年を数え、おれの中の悪魔の刃は鳴りをひそめ、ただの一振りの、鈍く光る剣になった。

和也は間違いなく、おれにとって天使か神様だった。


そんな存在にはもとから手が届くはずもないのに

恋をしたのがまず

間違いだったのだろう。


























調子に乗って書いてしまったA氏ver.
スロウンというのはどうやら王座とかそういうような意味らしいです
ナイトとの対比に、
キングオブキングかエンジェルかスロウンかで迷ってこれにしました

三択自体を間違えた