うしろの席のあいつ







亀梨和也、というのが、たぶんおれがこの学校で

一番はじめに覚えた名前。

クラス表を見てまず、純粋に珍しいと思ったからだ。

ただ、それだけだった。


それから、クラスで席が前後になった。

あかにし、でおれは窓側一番前、いとうも、うちだも、おかだも、あ行の人間が他にいなかったこのクラスでは、

かめなしはおれの真後ろの席だった。

ちょっと、お、とか思ったのだが、亀梨というのは至って普通の人間だった。

どのクラスでも一人はいるような、

顔自体はそんなに悪くないのに、どこか存在感の薄い、

とりたてて上げ連ねる何かがない、可もなく不可もない、そういう存在が、亀梨だった。

三日で興味はよそへ移り、

どちらかといえば存在感のアピールに命かけているような奴らと仲良くなるのが、おれという人間だ。

後ろの席には目もくれずいたから、高校一年一学期の亀梨のことはあまり、記憶に残っていない。


おれは親の転勤で、隣県から受験してここに通うことになったため、

入学当初、一切知り合いはいなかった。

すぐに友達はたくさんできたが、それでも16歳、寂しいと思うことも多かった。

あっちで仲良かったあいつはどうしてるだろうとか、

おれとちょっといい雰囲気だったあの子も、おれがいなくてさみしいと思ってくれてるだろうかとか。

絶対に夏休みはあっちに遊びに行こうと決めて、

しばらく滞在する金を作るためにバイトをしまくった。

結果、

バイトのせいで期末試験は全滅。

うそ、と嘆くと、あたしが泣きたいわ、と母親が成績表片手に怒り心頭だった。

夏休み返上で補習授業を受けることになったおれ。

金はあっても暇がなくなってしまった。


夏休み初日、ぼちぼちと集まる、いつものメンツ。

クーラーの唯一設置されている視聴覚室で、補修は行われる。

おめーもか、おめーもかよ、なんて、まあつまりおれと仲良しの誰それはだいたい集まっていた。

派手なうちわで煽ぐのは6組の田中、ヘッドホンからがんがんと(傍で聞いているこっちの頭が痛くなるような)爆音でロックを聴いているのが4組の上田。

三か月で一番親しくなった、別に頭が悪いわけじゃないけど期末のその日に風邪をこじらせた可哀そうな男が、同じクラスの山下。

そして、昨日ブリーチをかけた髪でのこのこやってきて、今朝学年主任に注意を受けたばかりの、おれ、1年1組。


「補修くらいどんなアタマでもいいじゃん、な」

「ばっか仁、中身が悪いんだから外見くらいマトモにしときゃいいのに」

「んだと!」


山下とくだらないやりとりで盛り上がっている、そんなさ中、


亀梨がきた。


えへへ、というような苦笑いでおれたちに混ざって、一番うしろの椅子に座った。

夏服の白に張り合うくらいに、椅子を引く二の腕が白くてまぶしかった。

それはすごく印象に残っている。

こいつはまじめな奴なんだろうと勝手に思っていたから、どうして、って驚いたわけだ。

そんなおれの気配に気づいたらしい田中が、


「あいつも山Pとおんなじー、試験熱出して休んだんだと」


と斜め前の席から声をかけてきた。


「あーそうだっけ。って、え、何?おまえ、あいつと仲良いの?」

「中学一緒だもん、それなりにー」


「うっそ、あんな地味で暗そうなやつとおまえがぁ!?」



教室内が瞬間静まる。

ひんやりした汗が背中を伝う、ああ誰だ、冷房の設定温度下げた奴は。

ちょ、仁、と山下にいさめられる。

は、と気づいても後の祭り。

おれのアホのようにでかい声はきっと、亀梨にも届いてしまっただろう。

こわごわ振り返ると亀梨は、ちょっと困ったように、でも、気にしてないよとアピールするように、またえへへと笑っていた。

気づいた田中が眉根を寄せる。


「あのさ、赤西。あいつほんといいやつだから。

 あいつ悪くいうやつのこと、おれ余裕で殴れっから」


覚えとけな、とだけ言って、田中は前を向いてまたうちわであおぎ出した。

次に上田が、つかつかやってきて、おもむろにおれの机を蹴りあげた。


「かめちゃんに土下座しろバカ西」


上田の目は九割がた本気の色をしていた。

こいつと親しくなって久しい、

ボクシングをやっていることも学年で3番目くらいに人気があることもギターが弾けることも知っていたが

亀梨と親交があるなんて知らなかった。

田中にしたってそうだ。

悪そうな奴はだいたい友達、を地で行く田中は、廊下を歩けば教師ですら道を開けるような存在なのだが。

中学が同じとしても、なぜ、亀梨なのか。


「あっ、た、たっちゃん!いいから!こうきも、ありがとね、

 あの、赤西君も気にしないで、ほんとおれ、地味なの、だから、」


不穏な空気に亀梨は走ってやってきて、上田と田中に声をかけて、

おれにまで気を遣って、それからまた席に着いた。

上田はおれをひと睨みしてから、亀梨の隣に机ごと移動していた。


おれは心底驚いた。

山下が、田中に上田ごめん、亀梨もごめんな、とかフォローしてくれている隣で、

あの田中に、あの上田に、ここまで言わせる亀梨のことが、

すごくすごく気にかかって仕方なくなってしまったおれだ。




まーた続きものに手を出すバカタレです
学生大好き!
最近寒いので、暑い時期の話にしてみた