おめでとう
ありがとう
このやり取りを今日は五百回はした。
生まれてきてくれてありがとう、は
親とか地元のつれとかに
十回くらい言ってもらった。
愛してる、はメンバーがくれた。
嬉しい日。
年に一度の、大切な日。
傷つけてはいけない人を傷つけて、傷つけられた、
風化しない一日。
疎遠だった
あいつから
四年ぶりのメールがきた。
思いもよらぬメールがきた。
撮影終わり、おれは泣きながら
車を飛ばしている。
四年前
裏切ったのはおれだった。
おれの誕生日、よりにもよってあいつの家で、告白したことがある。
祝ってくれるつもりだったのだろう、
ケーキやら花束やらが視界に入り、
幸せの代名詞のようなそれがちくちくと眼球を蝕んだ。
告白は手ひどいものだった。
七か月前、おまえの誕生日
おれは別の男のとこにいた
仕事だったというのはうそで
おれはおまえという存在が重たくて、もう、無理なんだ
ずっとずっと、おまえと離れないとと思っていた
今日はそれを言いにきた。
そこまで言うとあいつは
剃刀で削ぎ取ったみたいに表情が抜け落ちて
手にしていたグラスを加減なしにこちらへ投げつけた。
二度とここに来るな、
死んでしまえ、
と唾とともに文字通り吐き捨てた。
おれは彼の家から這い出して、
でも、
ああ、と思った。
これでやっと、おれは解放される。
本当は愛しくて愛しくてたまらない、仁の言霊でもって
引きちぎられて血をふく心臓と引き換えに、
おれは自由になれると思った。
この狭く汚い業界で守るものがあるというのは、
片鱗もあらわにしてはいけない、秘密を抱えているというのは、
想像を絶する負担だったから。
足首にくくられた鉛つきの鎖を切り捨てて、高く跳べるのだと思っていた。
それこそがおれだと思っていた。
目の前に開かれた未来は、そばに仁がいなくとも、きっと輝いていると。
いろいろなことがあった。
ドラマに出たりデビューしたり、奴は留学したり。
ただのメンバーになり下がったお互い、以上も以下もなく接していた。
奇妙なことが起こる。
まず、食事が全くできなくなった。
40キロ代まで落ちた体重に戦慄を覚えた。
人の目を見れなくなった。
仕事をしていても、内容が頭に入らない。
無理して笑って、アイドルをして、頬の筋肉が痛くてアイシングする。
どうしたの、大丈夫、と一日に何度も聞かれる。
ああそうか、のし上がったから、仕事量が増えたからこんな、
そうだ、それだけだ。
きっと、このままいけばおれは望む全てになれる、
でもどうして、
疲れる。
疲れる。
ふと手を見ると、
何もかもぼろぼろと滑り落ちていくような、おかしな感覚。
おれたちって、どうなってるの?
このままいって本当にいいの?
胸を見ると、
何年も前の傷が全くもって癒えずに、それどころか膿んで熱をもって
痛みに喘いでいる。
きっとそこを切開したら。
今でも
中核に仁がいる。
なんたることだろう。
自分の愚かな間違いに気づいてももう遅かった。
三年して、それなりに話をしたり、
メンバーとして付き合うには十分に笑いあったり。
それでも、彼の家の話になったりすると
その話はやめろ、と這うような冷たい声音が
何度でもおれの心臓を傷つける。
傷つける、だなんて。
仁は自分のうち、自分の部屋での出来事に
忘れたくても忘れられないその場所での理不尽な裏切りにあって
それでもメンバーでいてくれるのに、
都合のいい、卑怯な、おれは、なんて、最低な。
そしてそんなまま
四年目になろうという、今日。
そうだ、メールが、きたのだ。
仁。
優しい、仁。
きっといつからだろう、全部わかっていたのだと思う。
おれの浅はかさも、全部。
19のときよりも、今、おれはおまえが好きで好きでたまらない。
送信者、
赤西 仁
タイトル、
おめでとうとか生まれてきてくれてとかおれは言わないよ、ねえかめでももういいよだから
本文、
うち おいで
うち おいで
おれは、泣きながら、車を飛ばしている。
思いがけず暗い話になったので、
もう一個幸せそうなの書きますね!
あわわ