まっしろな雪に押しつぶされた夜に、

彼はおれを掬いあげた。











ゆきの温度











ここは、どこ、

まずそう言葉を発そうと思うのに、くちびるが上手く動かない。

どうやら雪の中に長く埋もれすぎたらしいと、冷静に分析できるおれは、

この国の国境警備隊に身を置いている。

(戦争が終結を迎えた現在は、警備というよりは、雪山での遭難者の救護が主たる仕事だが。)

いや、警備隊が聞いてあきれる、おれは先ほど、足をくじいて身動きが取れず、死にかけていた、はずだった。

ゆっくりと首を回して、辺りを探る。

どうやらおれは、天蓋に覆われたベッドに寝かされているようだ。

とても暖かいので、きっと暖炉か何かに火がくべられていると思われるが、

如何せん天蓋は白く分厚く、その外の景色がほとんどわからない。

くじいたほうの足を、反対の足でなぞると、手当てを施してあるらしかった。


「めがさめたか」


唐突に声が降る。腹筋に頼らないような、儚げで、柔らかな声。

なぜだ。背筋が凍りそうに冷たい。

ここはこんなに暖かいのに。


「・・・あんた誰だ」


命の恩人だと思われる人物に、おれは警戒せざるを得なかった。

気配を全く感じさせないのだ。足音はあったか?衣擦れの音はあったか?はたしていま、そこに、いるのか?

数年前までは戦場に駆り出され、それなりに戦闘経験がある。人の気配には敏感なつもりだ。

これは異常だと、経験と本能が警鐘を鳴らす。


「きにせず、ようじょうしろ。はらがへったなら、つかいのものに、なにかもたせる。

 きずは、どうだ」


不可思議なしゃべりかた、ますますもって警鐘がひどくなる。

声や話す内容からして、幼子ではないと思うのに、そうとしか思えない発音だった。

たとえて言うなら、大昔読んだ童話に出てきた、人間に変身したばかりの、獣、それのような。

まさか。

ともかく、違和感だらけの声の主、

身動きのとれないおれは、動揺を隠すのに精いっぱいだ。


「手当て、あんたがしてくれたのか」

「そうだ。ほうたいをまいて、それから、よくきくまじないをしておいた」

「まじない?」

「おれが、まじないをかければ、なんでも、よいほうにむかう。

 でも、おれがふれると、なんでも、しにたえる」

「・・・」

「でも、しんぱいはいらない、だからしょくじは、つかいのものにもたせるから」

「・・・あんた、なあ、誰なんだ」


おれは、ある程度の確信をもちながら、あえて訊いた。

警備隊の仲間に、ただの伝説として聞きかじった、

・・・人間ではないなにか。


ああ、ここは、とても、さむい。


ふ、と空気が揺れた。笑う気配。初めて、そこに誰かがいると匂わせる、初めての気配。

次いで、しろい指が、天蓋のあわさいに割り込む。



「おそらくおまえたちが、なによりもおそれている、そのものだ」



音もなく滑り込んだからだは細く、しろく、

笑顔は儚く、美しかった。


想像以上だと、軽口のひとつを叩く間もなく、おれの舌は凍えて動かなくなってしまった。





ゆきおんな、と伝え聞いた、神に限りなく近いあやかし。

気に入った男を凍りづけるやら、恋敵の女に嫉妬して、雪に村ごと襲わせるやら、

おそろしい口伝は本当に当てにならない。


こいつ、男じゃねえか。










拍手お礼文でやんした

どうしようまたとんでもないところに手を出してしまった・・・
雪女て・・・
今も続いてます
先が見えないままの見切り発車はやめろというのに