いつでも彼我を隔てる天蓋を、

ああならば取り払えばいいと思ったおれはやはり、思慮が足りない。


凍えようとかまわない、

本気で思えたおれはどうにも、わがままな子どもだ。


ただただ名前が呼びたかった。

和也というのは、とても美しい名前だと思うと、ひとこと、

その目を見ながら伝えたかったのだ。








ゆきの温度









「和也。聖を呼んでくれるか」

「わかった」


空腹に耐えかね、ついに告げた。

絶食を強いられているわけではない。けしてない。

食事をと頼めばすぐにも、あたたかな料理が運ばれてくる。

それを最近は、できるだけ堪えるようになっていた。

なぜなら、・・・理由は至極単純、長くあやかしと話がしたいからだ。

おれが、食事や便所や、ときに運動やで、このベッドから、覆われた天蓋から外へ出るときには、

必ず雪のあやかしはどこか遠くへいってしまう。

現に今も、雪の吹雪く音がしている。あやかしを遠くへ連れ去る、嫉妬ぶかい雪たちの無言の足音。

なぜだかわからない、それが日に日に悔しいと感じるようになったのだ。

声だけでも、姿を見ることができなくても、そばにいたいのだ。


「アカニシ、よんだかー」


吹雪の音が小さくなると、かわりに能天気な声が降り注ぐ。

小姓は気のいい男だった。

雪のあやかしを母にもつ彼は、それゆえに赤子のころ、父親に殺されかけているそうだ。

母もそのときに、こころを痛めて雪に戻った、と聖はあっけらかんと話した。

そして殺されかけた赤子を守り、守るために父親ごとその村を氷漬けにしたのが彼だった。


ぞっとする。

さも当然という表情で、凍てついた村や人を眺めるあやかしを想像し、

背筋に戦慄が走る。

そしてどうしてだか、下民が神をあがめると同じに、そこにこそ強く惹かれてやまないのだ。


「今日は粥に味噌をといてみたぞ」

「ああ、・・・今そこへ」


天蓋を押し上げる。見慣れた、やんちゃな顔が、粥と汁物、それにあたたかな飲み物を用意して待っていた。

おれより幾分幼く思えるが、聞けば彼はずいぶんと年上だ。


天蓋の外は、ただただ白く、寒々しいほどにすべてが白で統一された空間だ。

ここはあのときと同じく、吹雪の山の中なのではないかと錯覚するほど。

しかしよくよく目を凝らせば、隣室の便所に続く扉があり、風呂に続く扉があり、小瓶の並べられた棚があり、

そしてベッドからまっすぐ北側、この小姓や、他ならぬあやかしの通る大きな扉が鎮座する。

それがどこへ続いているのかはわからない。知ることを許されない。


おれは粥を掻き込みながら、もうほとんど完治している足を見遣る。

あやかしのまじないは、彼の人外であるのを信じさせるに足るほど、よく効いた。

こうなると、包帯やら添え木などただのお飾りだ。

身体がなまっているので、最近では簡単な運動もこなす。

広い室内ならでは、聖が剣や武術の手合わせの相手になってくれた。


「なあ、聖。きいていいか」

「答えられるものなら」

「この部屋は、とても暖かいな?暖炉もないのに」

「ああ、そこに小瓶があるだろう。

 あれは、昨年のぶんの春の陽射しが詰まっている、匂いのない香だ。

 おまえの寝ているじょうぶな天蓋のなかでは、その香がずっと焚かれているし、

 おまえが外へ出る時には、おれがあすこから小瓶を出して、たたき割っているわけだ」

「・・・ああ、なるほど・・・」

「主様がこの部屋にいらっしゃるときは、おまえは知らないかもしれないが、すべてが凍りついているから。

 この部屋や小瓶へまじないを施してくださったのは主様で、

 そのじょうぶな天蓋や、まじないの塗り込められた小瓶はおれが探してきたものだ。

 おれにも感謝しろよ」


得意気な小姓、おれは素直に、うん、と頷いた。

驚異的な回復を見せるこの足が、

おとぎの国のそれのような話の数々を、なんの疑問もなく信じさせてくれる。

ふと、汁を啜れば、大根やら人参やらが、小さく刻んである。薄味は心地よく舌と腹を満たす。

この小姓は本当になんでもできるのだ。

こうきは料理や裁縫が得意で助かるのだと、あやかしは天蓋越しに繰り返す。

小姓が何でもできるので、何もできないあやかしは、それでもまじないをとなえ、

小姓が少しでも過ごしやすいよう、暮らしやすいよう努めているのだと。


何がどうして、おれは彼らが、

慎ましやかにお互いを支えあって異世界を生きる彼らが、

羨ましくて仕方ないのだ。












あっは
Kでてこねえええええ
バクホンの美しい名前聞きながら書いてましたv
やべえこのままじゃK死んじゃう、と途中でかつんに曲変更したんだぜ!
どうでもいい話なんだぜ!